トーキョー・レガシー・ワンダーランド【vol.52】木村家@慶應義塾大学病院地下

巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。
懐かしくて心惹かれる、うるわしの東京アーカイブズ。

この連載でも何度か書いているけれど、僕は2003年の夏、僕が45歳のとき、新宿区が45歳になったら、無料で健康診断しますよという葉書を受け取り、それで健康診断に行ったら、なんと糖尿病と診断されてしまった。それで、10月に10日ほど慶応病院に入院した。

それまで2人前食べていたのを1人前にしたり、散歩をしたりするようになって、どんどん痩せて糖尿病の数値はよくなった。
しかし、その後も慶応病院には通院していた。なぜなら、糖尿病というのは自覚症状がなく、よくなっているのか、悪くなっているかよくわからないからだ。3ヵ月の血糖値の平均ともいえるヘモグロビンa1c は自分で測れないので、定期的に通院して、その結果を聞いていた。だからだいたい3ヵ月に1度病院を訪れることとなった。

僕はいつも午前11時過ぎくらいに病院へ行き採血などをしてもらい、近所で食事をして、午後に診断してもらうというパターンだった。
食事する場所のひとつとして、慶応病院地下にあった木村家さんをよく訪れた。あんぱんで有名な銀座の木村家さんは、店先でパンを売っていて、甘い匂いが漂っていた。入院中は、この前を通ると、なんだか猛烈にあんぱんが食べたくなって困ったものだ。

その店の脇にカウンターだけのイートインスペースも併設されていて、そこで食事ができた。食事のために最初に訪問したのが2003年の12月5日だ。

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「野菜のナポリタン」というメニューがあって、それをいただいた。これがけっこうおいしくて、以来、ここで食事をすることが多かった。
そのとき、お店の雰囲気を撮ろうと、思ったが、自分の顔がメインになってしまった。

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壁や照明を撮りたかったのだけれど、失敗してしまったのだ。45歳の僕がそこには写っていた。しかし、まあ店の雰囲気はわかるかも。

自宅でもこのレシピを真似して「野菜のナポリタン」を作ったことがあった。ここほどおいしくはできなかったけれど、野菜をいろいろ入れて、トマトソースで味を整えた。

その後、何度もうかがい、野菜のナポリタン以外のメニューもいただいたのだが、あるとき、木村家さんは閉店してしまっていたのだ。

そんなことを現在発売中の『ぶらナポ』という本に書いた。

この本を読んだ方よりメールをいただいた。その方も慶応病院へ通院するたびに地下の木村家さんで食事をしていたそうで、なくなってさびしいと書かれている。自分以外にもここが好きな人がいたんだとうれしくなった。
 

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当サイトにて連載中の「トーキョー・レガシー・ワンダーランド」は、ピースオブケイクの運営するサイト「note」への引っ越しすることになりました。

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この連載について

初回を読む
巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。