お地蔵さんぽ【vol.3】なぜ「たこ八郎地蔵」は必要だったのか(法昌寺@台東区下谷・鶯谷)

人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

* * *

お地蔵さんのなかでも僕がもっともユニークだと思うのが、台東区下谷2丁目、法昌寺(ほうしょうじ)の境内にある「たこ八郎地蔵」だ。
たこ八郎といっても、若い人はご存じないだろう。
1970年代後半から80年代前半にかけて、しばしばテレビに登場していたコメディアンで、「たっこでーす」と言いながらも、斜めに走り過ぎていく姿が印象的だった。
最初は、この人だれだろうって見てたけれど、かつて「河童の清作」という愛称で呼ばれたボクサーで、日本フライ級のチャンピオンだったことを知る。
そのファイトスタイルは、ノーガードで相手に打たせて、その後ラッシュして勝つというもので、漫画『あしたのジョー』のモデルになった人だという。
そのためパンチドランカーとなったようだ。
その最後も強烈だった。1985年、海水浴へ行って、心臓マヒで突然亡くなってしまった。享年44歳。

そのお地蔵さんがこちらだ。

東京都台東区下谷2-10-6 法昌寺の境内にある「たこ八郎地蔵」

見た目はごく普通のお地蔵さまのように見えるが、よく見ると、いくつかの特徴がある。

胴体には本人の筆による「迷惑かけてありがとう。 たこ八郎」の文字が刻まれている。

なんとも味わいのある文字だ。さらにこのフレーズもたこ八郎っぽくていい。
顔をよく見てみよう。

わかりにくいが、前髪を「▼」のように長く伸ばしていたのがうっすらわかる。また、酔っぱらいに噛み切られたという耳の一部がないのも本人を彷彿させる。

台座の側面には願主が並んでいる。

コメディアンの由利徹の名前が最初にある。たこ八郎は由利徹の弟子だった。ボクサー時代から弟子入りを志願していたが、由利は断るつもりで、チャンピオンになったら弟子にしてやると言ったそうだ。しかし、その後、本当にチャンピオンになったので、弟子にしたというエピソードが残っている。

次に名前があるのは、漫画家の赤塚不二夫。かつて地方局のトーク番組で、自分がが死んだら、葬儀委員長をやってくれと冗談めかしてたこ八郎から言われたことがあった。そして、実際に亡くなったときに葬儀委員長をやったのが赤塚不二夫だった。

次に名前のある山本晋也は映画監督。たこ八郎は山本晋也監督の作品『下落合焼きとりムービー』に出演している。

最後の外波山文明(とばやま ぶんめい)は、役者であり、新宿ゴールデン街で「クラクラ」を経営している。たこ八郎はこの店の常連で、時に手伝いもしていたそうだ。

「他友人一同」とある。名前の出ない人も多数いたのだろう。

さらに「昭和六十年十月吉日」とあった。1985年だから、たこ八郎の亡くなった年だ。
さて、なぜこの地蔵はここにあるのか。それが、今回の最大のテーマだ。

このお寺の境内にあるのは、ここがたこ八郎の菩提寺だったことが理由である。
さらに、たこ八郎のお墓は実家のある宮城県にあるのだけれど、東京でもお参りできる場所があればと、発起人らがこの地蔵を建てたのだそうだ。
なるほど、お地蔵さんにはそんな機能もあるんだね。宮城県に行かなくても東京でお参りできる。

地蔵の後ろには、ボクシングのグローブがあった。

たこ八郎地蔵の後面には、「たこ八郎こと斎藤清作 享年44歳」と彫られている。
なんだか、しんみりした気持ちであらためて手を合わせた。

BACK  NEXT

【引っ越しのお知らせ】
当サイトにて連載中の「お地蔵さんぽ」は、ピースオブケイクの運営するサイト「note」への引っ越しすることになりました。

全話が見られるのはnoteだけで、当サイトでの掲載はピックアップとして1~5話と直近の5話の掲載を予定しております。
引き続いてのご愛読、よろしくお願いいたします!

この連載について

初回を読む
人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。