27歳の春、わたしは双子を身籠もった。
以来、寝床に横たわるたびにある思いがわたしを記憶の森へ誘い、木漏れ日の揺れる小径を辿るうちにわたしは目を伏せて立ち止まる。
子供のころ迷いもなく歩いた小径は不意に閉ざされ、振り返れば幾筋もの光が折り重なって目が眩む。
思わず瞳を閉じると緑の余色が瞼に滲み、背後で獣道が赤い口を開けている。
わたしは森の奥に迷い込み、底なしの沼に引き摺り込まれそうな不安に駆られる。
遠い日に葬り去った悍ましい出来事。
その記憶が脳裏を掠めると聴診器のプローブを二個引き寄せてお腹に当てる。
胎児の二つの心音を聞きながら気を紛らわせ、わたしは獣道の入口でうとうとしていた。
だが、お腹の二人が最後の疾走を始める前に穢れた沼の面を覗かなくてならない。
わたしの奥底に潜む罪過が二人の魂に刻印されないことを祈りながら……。
以来、寝床に横たわるたびにある思いがわたしを記憶の森へ誘い、木漏れ日の揺れる小径を辿るうちにわたしは目を伏せて立ち止まる。
子供のころ迷いもなく歩いた小径は不意に閉ざされ、振り返れば幾筋もの光が折り重なって目が眩む。
思わず瞳を閉じると緑の余色が瞼に滲み、背後で獣道が赤い口を開けている。
わたしは森の奥に迷い込み、底なしの沼に引き摺り込まれそうな不安に駆られる。
遠い日に葬り去った悍ましい出来事。
その記憶が脳裏を掠めると聴診器のプローブを二個引き寄せてお腹に当てる。
胎児の二つの心音を聞きながら気を紛らわせ、わたしは獣道の入口でうとうとしていた。
だが、お腹の二人が最後の疾走を始める前に穢れた沼の面を覗かなくてならない。
わたしの奥底に潜む罪過が二人の魂に刻印されないことを祈りながら……。
【目次】
Ⅰ 心 音
Ⅱ 約 束
Ⅲ 従 弟
Ⅳ 没 落
Ⅴ 嫉 妬
Ⅵ 終 章
【著者】
古池正数(こいけ・まさかず)
愛知県在住。広告代理店勤務を経て、現在自由業。
著書『グラフィティー2015』など。
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