トーキョー・レガシー・ワンダーランド【vol.31】マダムケイ@富久町

巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。
懐かしくて心惹かれる、うるわしの東京アーカイブズ。

マダムケイ@富久町

このところ富久クロスのことについて書いているが、今回は「マダムケイ」というお店。

最初に知ったのは2004年のことだ。
ミクシィという日本のSNSの草分け的な存在でオフ会がここで開かれた。
当時の僕は四谷の本塩町にある四谷コーポラスに住んでいて、新宿までよく歩いていた。
2003年に糖尿病だと診断され、以来、どこへ行くにも歩くことが多かった。
四谷コーポラスから、坂町という地名にある名前通りの長い坂を下りていくと靖国通りに出る。
そこから右へ歩けば市ヶ谷、左に歩けば新宿方面だ。
新宿方面へ歩くと、都営新宿線の曙橋駅がある。
曙橋にはかつてフジテレビの社屋があったが、このころはもうお台場に移転したあとだった。
曙橋を過ぎてしばらく歩くと安保坂という長い坂がある。
ここをあがり切った場所にマダムケイはあった。
その後、僕はこのマダムケイのすぐ近くのシャトレ市ヶ谷に住むのだが、もちろん当時はそんなことは知らない。
オフ会の前に行ってみたら、ああ、ここかぁって思った。
それがこちら。

ずっとテイクアウト専門店かと思っていたのだが、けっこう広いようだ。

「店内36席」とある。さらに看板に「MADAM K」。
お店の方は女性が何人かいて、だれが、マダムKなのかはよくわからなかった。
いや、そもそも、Kさんという人がいるのかどうかさえよくわからなかった。

2階席もあって、なるほど広い。
ハンバーガーだけではなく、普通の定食や麺料理もあった。

この日、いただいたのは「担々麺」。
メモにそうあるのでたぶんこの名前でいいと思うのだが、一般的な担々麺ではない。
画像は残っているが味はまったく覚えていない。

そして、オフ会。オフ会と言っても単にミクシィの人たちが集まって普通に食事をするだけの催し。
平日の昼時に行われた。

この日は、普通にハンバーガーを食べたと思うのだが、画像もないし、よく覚えていない。
その後、僕は早稲田に引っ越した。
早稲田にいる間、マダムケイに行った記憶はない。
その後、2008年に安保坂沿いにあるシャトレ市ヶ谷に引っ越した。

外苑西通りの終点に引っ越したというようなことを言うと、まれに「マダムケイに行きましたか?」というようなことを聞いてくる人がいた。
さらに、マダムケイのハンバーガーのレシピは特許申請しているとか、常連客に作家の浅田次郎がいるなどの噂話を聞いた。
近所に住んでみると、誰がマダムKなのか、だんだんわかってきた。
何度かお店にも行き、テイクアウトもしていくうちにいつもいるこの方がマダムKだとわかった。
ちょっと鋭い顔立ちの中年女性だった。
スーパーなどで買い物をしているときにマダムKと遭遇することもあった。
もちろん、マダムKというのは僕が勝手につけているだけで、本当はどうなのかはわからない。

テイクアウトしたサンドイッチなど撮影した覚えはあるけれど、今回探したけれど、出てこなかった。
2010年に撮影したこの画像ぐらいしかなかった。
そのうち、ランチ時になるとお弁当を売り始めた。
ごく普通のお弁当で、これも何度か買ったことがある。
そして富久クロスの工事が始まるのだが、マダムケイはギリギリ再開発の敷地外だった。

工事車両の向こう側にマダムケイがある。
この写真でもわかるようにマダムケイの右側に階段がある。
かつてはここの階段をあがると少し高い道があり、その両側に建物もあった。
富久クロスができたあともしばらく営業していたマダムケイだが、先日行ったらもうなかった。

たぶん、建物はそのままだが、リフォームされ、動物病院になっていた。
これまで普通に存在していたお店がなくなってしまうと、とたんに、ああ、またマダムケイのハンバーガーを食べたいな、なんて思ってしまう。

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巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
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【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。