『「乳と蜜の流れる地」から 非日常の国イスラエルの日常生活』山森みか


ユダヤ人とは誰か。民族共存とは何か。
今こそ知りたい中東の日常と一神教の手触り。
イスラエルの大学で教鞭を取る著者が、政治状況が急速に悪化するなか、ユダヤ人の家族やアラブの隣人たちとの交わりを通して、追求した問い。
批評精神とユーモアを交えながら、複雑な現実の重層性を明らかにする!

【本文より】
イスラエルのユダヤ人がどのような日常生活を送っているのかについて、日本ではあまり知られていない。メディアによく登場するのは、きわめて厳格にユダヤ教の規定を守るユダヤ教正統派や、狂信的に占領地に固執するユダヤ人入植者たちの主張であり、イスラエル社会のマジョリティを占める一般の伝統派、世俗派のユダヤ人の考え方や彼らが直面するジレンマに関しては、ほとんど取り上げられて来なかったと言っていいだろう。
私は、自分自身もその中で生活しているこれらの人々の日常についての記述を通して、古代からのユダヤ的伝統と現代のユダヤ人の考え方との関連を少しでも明確にしたいという大それた意図のもとに、連載を開始した。それが成功しているか否かは心もとない次第だが、読者の批判を待ちたい。家族を含む私生活をこのような形で公にすることへのためらいが私になかったわけではない。だが綿密な学問的手続きを踏んではいても究極的には個人の感覚や資質に基盤を置く人文学に多少なりとも関わる者として、自らの関心の出所をある程度明らかにするのは無意味ではないと考えるに至った。といっても私は、「自分はこの地に暮らしているからこそ問題の本質が分かる」とか「日本に住んでいる人間にはこの問題は分からない」などと言う気はない。物理的な近さが理解を保証するわけではないこと、問題が微妙かつ複雑になればなるほど体験や実感がかえって目を曇らせる場合があることは十分承知しているつもりだ。

【内容】
◆ユダヤ人とは?
◆何を食べようか、何を飲もうかと……
◆乾いた夏と恵みの雨
◆男(イーシュ)と女(イシャー)
◆安息日の過ごし方
◆だれでも話せるヘブライ語
◆二〇〇〇年後の帰還
◆ユダヤ人から見たキリスト教徒
◆キブツの危機
◆日本と出会うイスラエル人学生
◆憎悪に抵抗する記憶
◆ユダヤ人とアラブ人
◆安全と防衛――テロと選挙
◆安全と防衛――兵役の意味
◆改宗への道
◆二つの成人年齢
◆家族の意味
◆公教育の役割
◆産めよ、増えよ、地に満ちよ……
◆不安とオプティミズム
◆割礼という契約
◆死と葬儀
◆ユダヤ人であることの困難
◆ユダヤ人と日本人

【著者】
山森 みか(やまもり・みか Mika Levy-Yamamori)
1960年、大阪生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期過程修了。博士(学術)。現在テルアビブ大学人文学部東アジア学科講師。
著書『ヘブライ語のかたち《新版》』(白水社)、『古代イスラエルにおけるレビびと像』(国際基督教大学比較文化研究会)など。訳書多数。

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