突然ですが、あなたはこういう経験をしたことはありませんか?
ある日あなたは、密《ひそ》かに想いを寄せていた女性とデートの約束を取り付けます。
彼女は微笑んで「いいわよ、オッケー」と言います。その瞬間からデート当日まで、あなたは有頂天。デートプランを何度も練り直し、新しい服を買い、靴を磨き、頭の中は想像と妄想で一杯です。
いよいよデート当日、あなたは動物園をデートの場所として選びました。門をくぐり、すぐ隣にしなやかで美しい存在を感じながら、ゆっくりと歩きます。今日一日のプランは完璧ですから、あなたは自信たっぷりに歩きはじめます。
すぐ隣からは素敵な香りが漂い、視界の隅には伸びやかな細い脚が見えます。
そして最初の動物コーナーで彼女は立ち止まり、柵に寄りかかってあなたを向き、目を弓なりにしてこう言うのです。
「ねえねえ、あれ見て。かわいい!」
彼女の視線の先には、小さくてかわいい動物たち。しかしあなたにとっては、そんなことよりデートが上手くいくかどうかのほうが重要ですから、上の空で「うん、かわいいね」とオウム返し。
今は、目を輝かせて微笑んでいる彼女こそが、この世で一番かわいい存在なのですから。
そして、食事タイム。
出てきたお皿を見て、彼女はこう言います。
「うわあ、このお皿かわいい!」
その刹那《せつな》、あなたの頭の中に、微かな違和感が生じます。確かに、綺麗な絵柄ではあるけれど、かわいいのとはちょっと違うような……。
(この話、続きます)
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