『日本マンガ全史』(平凡社)澤村修治

本書は『ひらく』創刊号に掲載された「年表で『読む』日本マンガ史」を先駆形とし、大学の講義用資料をもとに書き下ろされたものです。

マンガは日本の大衆文化の重要な一翼を担ってきた。
古来からあった戯画の伝統にせりふを加え、ポンチ絵や新聞マンガなどマスメディアの一部としても発達したことで、戦後、マンガ文化は大きく花開いて現在に至る。
巨人・手塚治虫の功績、少年マンガ誌の隆盛、女性向けに特化して発展した少女マンガ、アニメ・映画とのコラボレーション。
その表現方法と題材の広さ、深さは特筆に値する。
「のらくろ」「鉄腕アトム」から最新作までを網羅。
大衆エンターテインメントの代表、広大なマンガの世界を知ろう!

【「はじめに」より一部抜粋】
 日本のマンガは戦後を中心に一大発達を遂げたが、もちろんこれは唐突に起きたわけではなく、過去の蓄積が前提となる。

 近世以前のあり方、明治のポンチ絵、大正の新聞4コマまんが、昭和に入ってまもなくの雑誌展開は、日本マンガ史に不可欠の要素となっている。これらをふまえて戦後に「大発展」がなされ、野放図なまでの活性化現象が起きたのだ。
 その変転の様相を大きな歴史の流れとして描くのが本書の主たる役割となるが、他方で本書は、扱うテーマを比較的多岐にわたらせている。

 マンガはすでに一つの文化遺産といってよい地位を築いた。と同時に、21世紀の現代でも生き生きと躍動している。
 歴史性とアクチュアリティを併せ持つ、こうしたマンガの生命力はどこから来るのか。それはマンガが、単なる芸術・文化現象を超え、産業として巨像化していったことと無関係ではない。

 マンガは出版・新聞といったマスメディア業に担われ、アニメへの展開を併せれば、放送・映画といった映像系のメディアとも深い関わりを持ちながら発展を続けてきた。
 作品生成過程ではプロデュースする側が複雑に関与しており、マンガの歴史はメディア史、なかでも出版史の文脈から見ていく視点が不可欠である。
 本書は全体にこの点を強く意識している。常にプロデュース側へ関心を持ち、とりわけ出版人が作品の登場にどう関わったかに筆を費やしている。

 加えて本書は、マンガ史と関連が深いアニメについて、叙述上の必要の範囲内で積極的に言及する方針で臨んだ。大正期からの日本アニメの歩みが、点描方式ながら綴られているのはこうした考えに基づく。そして第9章ではアニメを厚く取りあげている。

 また、マンガを見ていくとき見逃せないのは、(その表現を映像へ展開した)アニメと同道しながら、短期間に世界化を果たした事実である。manga-animeはいくつかの紆余曲折を経つつ、とりわけ1990年代以降、地球規模で多くの読者・視聴者を得るようになり、まもなく五大陸の津々浦々、まさに路地裏まで広まった。
 人気作品のキャラクターは、少年少女から大人まで、たくさんの人たちに親近感をもって受け入れられている。
 国境を越えた尋常ならざる普及力と定着の早さ、そして受容層の厚みという点で、マンガは他の日本発文化ジャンルの追随を許さず、世界史的に考えても類似の存在はほとんど見出せない。このテーマに関しては第10章でその様相を追っている。

 なお、ネット環境が行きわたりデジタル化が進む21世紀において、マンガは新たな創造姿勢を見せた。ネット・デジタル文化と先んじて親和し、先鋭的、あるいは尖兵的様相さえあらわしてきたわけで、本書は第12章を中心にこの点への言及も行っている。

 これらを併せ、通史という基本姿勢のなかにテーマ性のある項もできるだけ織り込んだのは、本書を特色づけるはずだ。

【著者】
澤村修治(さわむら・しゅうじ)
1960年東京生まれ。淑徳大学人文学部表現学科教授。千葉大学人文学部人文学科卒業後、中央公論社・中央公論新社などで37年にわたり編集者・編集長をつとめる。2017年から帝京大学文学部日本文化学科非常勤講師を兼任。2020年3月、中公を定年退社し、同年4月より現職。著書に『唐木順三』(ミネルヴァ書房)、『ベストセラー全史』近代篇・現代篇(筑摩選書)など。 近刊に『日本マンガ全史』(平凡社新書)。

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