トーキョー・レガシー・ワンダーランド【vol.46】蛙河童@かっぱ橋本通り

巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。
懐かしくて心惹かれる、うるわしの東京アーカイブズ。

今回は河童のオブジェの話だ。
2005年、それまで下関マグロ名義でやっていたオールアバウトのフェチというサイトが大人の事情で終了し、本名名義の散歩のサイトがスタートした。オールアバウトは専門家たちがそれぞれガイドとしてその分野に関する記事を書くわけだけれど、散歩について僕は素人だった。いや、今でも素人なんだけど、当時はもっと何もわかっていなくて、担当の編集者と散歩といえば浅草だろうということで浅草にやってきた。
浅草寺にお参りした後で、天丼を食べて、なんとなく上野方面へ歩こうということになった。その時初めて「かっぱ橋本通り」を歩いた。
通りには、河童のオブジェがたくさんあった。ユーモラスな姿の河童たちは木造で、劣化していたものもあったのだが、その中で僕がいちばん気に行ったのが「蛙河童」と名前がつけられたものだ。

他の河童オブジェとは少し趣が違っていた。小ぶりで、顔の表情などは独自だった。また、頭の上に蛙がのっかっている姿がとてもユーモラス。

頭の上の蛙がなんともかわいい。貼られているプレートには、「下町河童伝説」とある。そして、ご利益として「失せ物かえる」とあった。へえ、ご利益があるんだね。これはいいやと、頭の蛙をさすってみた。

このとき、後に僕がこの通り沿いに住むなんて、夢にも思っていなかったのだが、新宿区から台東区へやってきた。引っ越したのは2014年。引っ越してすぐに、昔、撮影した河童はいまどうなっているんだろうと見に出かけた。

久しぶりに遭遇した蛙河童はちょっと色が剥げていた。
それでも元気そうな蛙河童を見て、なんだかうれしくなった。

他の河童たちはペイントしなおされて、けっこうきれいになっていたのに、蛙河童は新たなペイントは施されていなかった。

そしてある日、蛙河童がいなくなっているのに気づく。あらら、どこに行っちゃったんだろう。そう思いながらも、ちょっと忘れていたのだけれど、今回、この原稿を書くために探してみた。

「肉のさがみ屋」というお店の前にあった。隣にいるの河童の名前はわからないが、仲良く並んでいる。初めてこの通りに来たとき、このお肉屋さんの前には河童はいなかったと記憶しているんだけど。

たぶん、これらの河童は各商店の前に置かれているのだけれど、そのお店が営業をやめると、別の店の前に移動するようだ。

すっかり色もはげて、名前もついていないので、この緑色の河童が「蛙河童」だと知る人もいないだろう。

時の流れってこういうことなんだね。僕は「蛙河童」のことは忘れていないよ、と心の中で声をかけながら、ペイントの禿げた蛙をさわってみた。ざらざらした感触だった。

実は、このところ「かっぱ橋本通り」の河童は数が減っている。せっかくの河童の通りがなんだかさびしくなっているのだ。みなさんもこのあたりに来られたら、河童を探してみてはいかがだろう。またちょっと違った散歩ができると思うよ。で、ぜひ蛙河童をさがしてみてね。
 

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当サイトにて連載中の「トーキョー・レガシー・ワンダーランド」は、ピースオブケイクの運営するサイト「note」への引っ越しすることになりました。

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この連載について

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巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。