投機の流儀 セレクション【vol.97】「裏の裏は表だった」による大いなる安堵感

「裏の裏は表だった」による大いなる安堵感

トランプは御承知の通り、多くのメディアと喧嘩している。
喧嘩を売ってきたトランプのことをメディアは悪い面だけを伝えたがる。
我々のトランプ像はそのメディアを通して知るところであるから、トランプの実態は、我々の知るところよりも少しはマトモな人なのかもしれないと、少なくとも筆者は“裏読み”してきたが、今回の選挙で下院に(特に若年層有権者に)、アンチ・トランプが強かったということは、「裏の裏は表」であって米国内においてもトランプ像は多くの票田に否定された事を知った。
筆者は大いに安堵した。

米国は軍事力と経済力というハードパワーと「理念の合衆国」というソフトパワー(人権の尊重・自由・議会制民主主義・市場経済等)をもって世界のリーダーだった。
「だった」と言ったのは、トランプがソフトパワーの全てを破壊しアメリカ合衆国は果てしないポピュリズムの泥沼にはまりつつあるかと、筆者は長期的には株式市場よりもこの方を不安に思っていた。
別の項目で述べる「米中の新冷戦」は「米ソの旧冷戦」と異なり、資本主義・対・共産主義の判然たるイデオロギーの対立はなく、資本主義・対・資本主義の対決であり、しかもグローバリズムによってこの対立は拡散されるし、経済的にも不可分なものにはまり込んでいく。

旧冷戦時代は我々は西側を、特に米英を見ていれば足りた。
ところが今後は新冷戦という複雑で広範な状態に陥り、しかもアメリカがポピュリズム化(ポピュリズムは極左か極右になる。古くは自由・平等・博愛を標榜したフランス革命もそうだったし、レーニン革命もそうだったし、ヒットラーもそうだった)しているので、明確な価値観や行動基準が混沌としてしまった、という長期的な視野に立った不安を筆者は持っていたが、今回の選挙で下院がアンチ・トランプが多数となり、しかも若年層の票田にアンチ・トランプが多いという報道に接し筆者は大いに安堵した。

77年(だったと思う)「ロッキー」という単純明快な映画が公開され、これが米国で史上空前の興行成績を上げたと聞いて、筆者は「アメリカの将来は捨てたものではない」と直感した。
その当時はベトナム後遺症のためにアメリカは疲弊し弱体化し、大国の衰亡はこのようなものなのかと思えた時代である。
折しも65年~85年の「株は死んだ」“Death of Equities”と言われた低迷時代であった。
しかし映画「ロッキー」のラストシーンで血まみれになった主人公がマットにダウンせずにファイティングポーズをとって立ち続けていた、このシーンを見た時に筆者は、

「この姿こそ今のアメリカなのだ。この映画は史上最高の興行収入を上げたという。アメリカには復活力がある」

と思ったものだ。
今回の選挙結果を見たときに筆者はあの当時の既視感を持った。
あの当時はレーガンが出るまではアメリカは傷だらけになっても倒れずに立っていた。
けれども復活力はなかった。
ところが、そのかなり後に映画「タイタニック」が出てこれが史上最高の興行収入を上げたと聞いた。
これはご承知の通り、CGを駆使した物珍しさもあったろうが、要は単純明快な純愛物語だ。
日本で言えば「野菊の墓」や「伊豆の踊子」のようなものだ。
これがアメリカの若者に大ウケしたと聞いた時、筆者はアメリカの若者の感受性を信じ、彼らに未来があると直感じた。
今回の選挙の結果には当時の既視感がある。
しかも当時は、京都大学の国際政治学者の最高峰と仰ぎ見られた高坂正堯著「文明が衰亡するとき」をもって古代ローマ・中世ヴェネチア・現代アメリカを挙げていた頃であった。
現代アメリカに対する衰亡論は高坂正堯をもってしても(幸いなことに)的中しなかった。
今日、アンチ・トランプの勢力の健在さを見せられて、メディア報道の「裏」を想像していたところ実際には「そのまた裏」でアメリカ国内は若者を中心としたアンチ・トランプが生きていたのだ。
「裏の裏は表だった」と持って回ったような表現を筆者がしたのは以上のような経緯があったからである。

普通は中間選挙の関心はさほど高くないものだそうだ。
ところが今回は期日前の投票者数が過去最高となったそうだ。
テレビの画像で見る限り、投票所へ行く若者たちは「壁をつくるのではなく橋をかけよう」というプラカードを持っていた人が多い。
これは一昨年秋の大統領選で民主党のヒラリー・クリントンが選挙演説で頻発した言葉であった。

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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