投機の流儀 セレクション【vol.94】「グローバル・システミック・リスク」「世界のカオス化」を予言する“欧州の知の巨人”

「グローバル・システミック・リスク」「世界のカオス化」を予言する“欧州の知の巨人”

この項目で要約するのは「欧州の代表的な知性」とされているジャック・アタリの著書の要約である(「新世界秩序」ジャック・アタリ著、作品社、2018年刊)。
彼は仏ミッテラン政権の大統領特別補佐官の頃から筆者は関心を持っていた。
欧州復興開発銀行の初代総裁であり、経済学者・思想家として一目置いてきた人物であった。

彼はこう言う。
2030年においてであるが、世界秩序は大きく転換する。
その理由はアメリカ発の孤立主義にある。
アメリカの同盟国は安全保障の上で重大な危機に直面する。
もちろん、経済の上ででもある。
世界の超大国アメリカは経済・軍事・政治の面において少なくとも10数年は超大国の地位を維持する。
欧州連合(EU)・中国・インドはそのはるか後方に続き、さらに後方から日本が続く、ということになる。

各国の企業の本社は法的規制が最も緩く課税が最も軽い場所に絶え間なく移動を繰り返す。
その結果、各国政府は税収が減り、財政基盤は極めて脆弱になっていく。
かくて、グローバル市場は法の支配を免れた空間に数多く存在することになり、法の支配なき市場になっていく。
犯罪集団は巨大化し軍隊に匹敵する武器を保有し、国家並みの力となっていく。

こういう時には現在のような国家や国際機関では世界を統治できない。
その結果、未解決の諸問題が蔓延し累積しグローバル・システミック・リスクとなる。
例えば、大規模なハイパーインフレによる世界的な金融危機、人口激増による飲料水・食料の不足・地球温暖化による干ばつや洪水の発生、永久凍土の上に存立している国家や都市(ロシアの相当部分・シベリアのほぼ全土・アラスカのほぼ全土・カナダの相当部分)は地球温暖化による凍土溶解が生じて地殻変動を起こし大規模地震に見舞われたと同様な結果を生ずる。
(★筆者註1)

また、ジャック・アタリ氏に戻る。

世界はカオス化となり世界秩序は大きく転換する。
その原因はアメリカの孤立主義にある。(★筆者註2)

日本を含めてアメリカの同盟国は安全保障上で重大な危機に直面している。
アメリカは防衛力を誰とも共有する気はなくなったからだ。

米トランプ、ロシアのプーチン、中国の習近平、この3つの大国の指導者は3人とも長い任期を持ち、3人とも孤立主義を明確に打ち出している。

世界は今後、経済・軍事・金融・環境問題・人口問題・政治外交のすべての分野で巨大なカオスに陥っていく可能性がある。
その結果、世界規模の金融危機・大規模な戦争など最悪の状態に陥る可能性も無視できない。

しかし、大国の興亡という壮大な視点に立てば、アメリカの衰退はいずれは避けられない。
相対的に見ると他国の経済成長がアメリカを上回るからだ。

市場は益々グローバル化していく。
その結果国家権力は益々無力となる。
しかも「グローバル国家なきグローバル市場」「法の支配なき市場」が現実のものとなる。
その結果、法の支配を免れた巨大な組織が存在することになり、彼らは強大な武器を持ち他国への影響力を行使する外交手段も備えた国家並みの政治勢力となる。

以上は恐ろしく暗い話しばかり述べたが、これが欧州復興開発銀行の初代総裁を務め経済学者・思想家として現在も「欧州の知の巨人」と言われているジャック・アタリの新著の要約である。

(★筆者註1)
次は筆者の感想である。
「自然環境にやさしく」などと言っている段階ではない。
自然環境の方が人力よりも何層倍も強いのだ。
「自然環境にやさしく」などと言う言い分は、管理された自然林や動物園の家畜化された野獣を見てそれが自然環境だと錯覚している低層レベルの人々の言い分だ。
また、「銃で野獣を狩るのは可愛そうだ」などと言っている可愛い子ちゃん並みの知性の人々に言いたい。
ケニアやタンザニアのサバンナやジャングルに行かなくも日本国内の山野を跋渉してみれば、人間が如何に無力かが分かる。
銃を持ってこそ人は野獣と対等になれるのだ。

(★筆者註2)
アメリカは元々,19世紀前半からの「モンロー主義」に見られたように、本来は孤立主義を好む国であった。
北米大陸は、原油・鉄鉱石・食料・レアメタル等に至るまで全てが自給自足できる国である。
ちなみに日本は食料の自給量は30%台だから60数%は他国に頼らなければ食っていけない。
その点、アメリカは食料はもちろん軍事・経済・文化等の全てを自給自足出来て、世界から孤立しても生きていける国である。
根本的なこの事情の違いは我々の想像以上に強いものと思う。

アメリカの孤立主義はトランプから始まったわけではない。
元々、孤立して食って行ける国であり少しも支障をきたさないという強みがある。

「モンロー主義」などという古い話しは棚上げにして現代アメリカを見た場合、アメリカの孤立主義はジュニア・ブッシュ政権時代(共和党)に始まり、オバマ政権時代(民主党)に確立して、トランプ政権時代(共和党)に完成するであろう。

元々、孤立しても立ち行くという素質を持った大陸に存立する、この超大国は、共和党・民主党を問わず、孤立主義の遺伝子を持っていたが、「世界の警察たらんとする」という理念をオバマ時代に捨てた、その時から俄然、孤立主義を子言するようになった。
ジャック・アタリが言うのは、ここが基底にあると筆者は思う。

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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