投機の流儀 セレクション【vol.86】世界新秩序の確立か乱雲乱流突入か

世界新秩序の確立か乱雲乱流突入か

第二次世界大戦後3分の2世紀を経てきた「戦後秩序」が大きく変わろうとしている。
世界新秩序(The New World Order)の確立なのか乱流が乱雲の中に突入したのか。
いずれにしても戦後の世界秩序が大きく変わろうとしている。
この秩序を変えているのはトランプ大統領のように見えるが、それならば大統領が代われば秩序はもとに収まることになる。

しかし、トランプを大統領に選んだアメリカ合衆国そのものが変わったのかもしれない。
筆者は一昨年の選挙中から新大統領はヒラリー・クリントンではなくてトランプである旨を語ったり書いたりしてきたが、それは彼の政策が良いからとか見識があるからというのではなく、その選挙のやり方にあった。
多数派を占める中流階級・下流階級・低学歴階級を取り込んだのだ。
この方が人口比は圧倒的に多い。
そういう連中がトランプを選び今もってトランプを支持しているとすれば、アメリカ合衆国そのものが変質し世界を変えているのかもしれない。

トランプ一人が起こしている騒ぎならば、大統領が代われば元の鞘に収まることになる。
この2年間は「アメリカの変質」「理念の合衆国と言われたアメリカが経済と軍事の二つのハードパワーだけに頼る合衆国」に変質したように見える。
そうすれば「もう一つの中国」が北米大陸に誕生したことになる。
トランプ登場以来、アメリカの変質とそれに引きずられた世界の変化はトランプという男の一時的な衝撃なのか、それとも「理念の合衆国」が「ハードパワーだけの合衆国」として中国と同じ存在に成り下がったのか。

これは秋の中間選挙を見ればおよその見当はつくし、それによっては2年後のトランプの再選ということも考えられてくる。

トランプは実に明快である。
アメリカにとって有利にならないことはどんな約束事でも否定し強引にそれに従わせていく。
最初に手を付けたのはアメリカ自身が主導してきた自由貿易協定、TPPからの脱退だ。
今後は多国間協定を結ばずあいたい相対で二国間の交渉で決めると宣言し、ハードパワーの勝れるアメリカが有利になるように事を運ぶつもりである。
これに対して80年代の対日貿易摩擦が熾烈を極めたときに日本はおとなしかったが、その日本に追い打ちをかけるように85年にプラザ合意という「史上最大の悪だくみ」を演じて日本を追い詰めた。
アメリカはまた中国だけではなく日本やEUにも対立するような姿勢をとりつつある。
アメリカの日本に対する貿易赤字は約7兆円強に達しているが、日米二国間の交渉だけでそれを突破しようという狙いがある。
この他にアメリカは世界の環境ルールを定めたパリ協定からも脱退した。
また、原発廃炉を進めシェールガスでエネルギーの主導権を確保しようとしている。
アメリカはまた安全保障でもEUとの亀裂を深めている。
EUのロシアからの天然ガス輸入を批判したり、ドイツの国防費の低さを持ち出してEUの代表ドイツを「ロシアの捕虜」という蔑称で呼んだ。
終戦直後アメリカは、民主主義・人権・自由経済などの理念を重視し、自由主義国家のリーダーとしてハードパワーとともに「理念の共和国」として世界をリードしてきた。
この秩序を一挙に壊したのはアメリカ第一主義である。
トランプの登場とそのやり方で戦後秩序の大転換が行われようとしている。

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

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