投機の流儀 セレクション【vol.81】超緩和、長期化の副作用

超緩和、長期化の副作用

4月の金融政策決定会合で日銀は「2%目標」の達成時期を削除した。
つまり「持久戦」に持ち込み、「2%目標」だけは旗幟鮮明に標榜し続けることにした。

①これはもはや現状追認したに過ぎないが、
②現状を無視して無理な楽観論を唱え続けるよりはよほどマシである。
③強引な追加緩和を試みたりするよりもはるかに真っ当である。

今月末に出される「展望レポート」では物価が上昇しない様々な理由に関する分析を提示しつつ、物価見通しを大きく引き下げるであろうと予想される。

今は超緩和の長期化に伴う副作用を考えることが先決であろう。
「2%目標」が「2年程度」で達成されるならば、金融機関には多少の我慢をしてもらえば済む話だった。
2013年の4月に着任した黒田氏は、そう考えたいに違いない。
筆者らもそう考えた。

ところが、二つの問題がある。

①一つは超緩和の長期化がもたらす金融機関への副作用である。

扱う商品の価格が下がれば、当該企業の利益は減る。
またはマイナスになる。
例えば原油価格が安くなり、非鉄金属が安くなり、食用価格が安くなれば商社はみな減益になる。
これと同じだ。

今の状態では地方銀行は半数以上が赤字であろう。
メガバンクも苦しいであろう。
みずほ銀行に至っては「平時」において16,000人を削減するという。
銀行が弱体化すれば、あるいは地方銀行が赤字になれば、銀行の金融仲介機能が弱まり、資本主義体制の血流が弱まる。

原因はまったく違うが、平成に入っての13年間は土地暴落、株暴落によって担保が目減りし債権が不良債権化した。
そこへもってきて88年に決まったBIS規制によって貸し出しが自己資産の12.5倍以内だと決まった。
よって銀行は猛烈な貸し渋りに入った。
または「貸しはがし」に入った。
これが日本の資本主義体制を大きく弱体化させた。

今回は原因はまったく異なるが、銀行の体力の弱体化を招いたことは間違いない。
しかも、物価目標が達成される前に次の景気後退を迎える可能性は高い。
そうなれば金利を下げて景気を刺激するという金融政策を打つ手がない。

FRBは一歩先に進んで、現在好調な米国景気が不調に入った時には金利引き下げによって刺激してやるだけのノリシロをつくりつつある。
日本にはそのノリシロがまったくない。
ゼロ%かマイナス金利なのだから、これ以上緩和する余地がない。
出口戦略が整う前に景気が後退期に入り収縮期に入った場合に、打つ手がない。
これが大きなリスクとなる。
その場合に株式市場に与える影響は大きいであろう。

NY市場や上海市場や円ドル相場の行方を外部要因としては注視していなければならない。
しかし、本当のリスクは日本国内に現存する銀行の弱体化である。
その体験を我々は平成に入ってからの13年間で「失われた13年」と筆者は述べてきた。
「失われた20年」は朝日新聞の造語である。
本当は90年1月の大暴落から2003年4月のりそな銀行への公的注入で不良債権処理を終了したこの13年間を指す。

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

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