人工頭脳AIによる証券運用は効率的結果を出せるか
ここで「効率的結果」というのは、市場のベースになる一般数値(例えば日経平均株価、TOPIX)が上昇した時にそれを上回る運用成果を出し、指標が下降する時は運用成果は下降しないで済む、という状態を指す。
この標準数値との差を「α」(アルファ)と業界では呼び「αを探せ!最強の証券投資理論――マーコヴィッツからカーネマンまで」(ベン・ウオークウイック著、遠坂淳一監訳、日経BP出版センター、2003年刊)などという名著もある。
この項はAIによる証券取引でαを求めることができるかというテーマである。
自動車運転は頭脳労働の一種である。
これもAIができるようになる。
自動車運転には不測の事態が無数に考えられる。
それを消化して安全運転できるようになるという。
また、AIは囲碁で人間に打ち勝つまで進歩した。
囲碁のケースも何十万何百万という手がある、これが全部インプットされているのであろう。
そうすれば市場に起こる全ての例外ケース、海外の問題、政治の問題、天候の問題なども全てをインプットすれば効率的運用は可能ではないかと考えられる。
結論から言おう。
AIによる証券運用がいくら進歩しても効率的運用は不可能であると結論せざるを得ない。
その理由は簡単である。
金融市場を相手にしなければならないからだ。
金融市場は自動車運転や囲碁の勝負とは基本的に異なる点を持つ。
それは確実に利益を上げる方法があれば市場参加者の全員がそれに従うからである。
自動車の安全運転は確実な方法があればみんながそれに従っても安全運転が害されることはない。
ところが、相場の世界ではみんながそれに従えば一方的な上昇下降となり効率的運用は不可能になる。
確実に利益が上げられる情報があり、それが公表されていれば市場参加者みながそれを使いその結果として市場価格が変化してしまう。
したがって効率的運用は不可能となる。
19世紀のはじめロンドン市場におけるネイサン・ロスチャイルドのとった行動は200年後の今でも鮮明に伝えられている。
彼はいつも取引所の或る一定の柱に寄りかかって売買の指示を出すのであるが、ウォータルロー戦の結果が出る日に朝から自分の債券も株も売りまくった。
値段構わず投げた。
そこで「これはナポレオン戦争に英国は敗けたのだ。
その情報を奴はつかんでいるのだ。
抜け目ない奴のことだからそれに違いない」と全員が思ってみんなが一斉に債権も株も投げて大幅安を演じた。
その時ロスチャイルドが一瞬買いに転じて巨額の利益を上げた。
この話しは有名である。
その時にロスチャイルドが一定の柱に寄りかかって売り買いの指示を出す癖があったので、その柱を「ロスチャイルドの柱」と呼び、みんながツキが来るようにと「ロスチャイルドの柱」に寄りかかる人が何十万人も出てきてその柱が少し擦り切れているという話しだ。
筆者もロンドンに行ったときにその柱に寄りかかってこようとしたが(北鎌倉の銭洗い弁天に行ったときのことを既述したがあれと同じ心境で)残念ながらロンドンの取引所では入室を許されずそれは果たせなかった。
ところでこの時のネイサン・ロスチャイルドの行動は伝書鳩によって現地から情報がもたらされたのではないかというのが隠れた通説になっている。
例えば、そのように市場では或る巧い方法が見つかったとなればみんながそれに従う。
これを筆者は「バッファロー現象」と称して、ネイティブ/アメリカンがバッファローを狩る時に一定の方向に走らせて谷へ自ら落下させるようにさせて大量のバッファローの毛皮を獲得するということを述べた。
哺乳動物はライオン以外のネコ科とオランウータンだけは個体が独立して生きていくが他のすべては群れるDNAが今でもある。
これが市場におけるバッファロー現象の原始的なDNAであると筆者は思っている。
基本的にそういうDNAを持っている。
ましてやAIによって市場の平均を超える利益(α)を得ることができるとなれば、全員がそれをやる。
それを利用した取引が直ちに行われてしまうため効率的な利益は永続できない。
AIは金融市場全体を効率的にさせることには十分に役立つだろうが投資家の効率的利益を実現させることは不可能であろう。
この連載について | |
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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