3ヶ月ぶりの円安、新興国から資金流出、アルゼンチン・ペソ、メキシコ・ペソなど急落
1ヶ月半で5円程度の急速な円安が起こった。
15日発表の米経済指標などが相次いでドル高を誘い、市場では米金利上昇は年内にあと3回(今年4回説)という見方が多くなってきた。
新興国から米ドル通貨が移行する急激な動きになり、新興国の通貨下落・国債下落・株下落という動きを示した。
海外の投機筋は円の持ち高を中立化させている動向のようだ。
110円というレベルは日本の輸出企業にとってはドル売り・円買いに走りたい水準であろう。
円相場は今月はタイトルでは急速に下落したが、対ユーロや新興国通貨に対しては上昇した。
15日収録の「動画」では詳しく述べたが、要約する
アルゼンチン・ペソが急落して新安値に入った。
これは米金利が上がっているから新興国から資金を引き上げて金利の高い米に持っていく動きである。
アルゼンチンは2001年にデフォルトした国だ。
そして2015年に国際復帰した。
デフォルトした国が14年後に国際市場に迎えられたのだ。
マクリ大統領は来年末まで任期があるが、ブエノスアイレスを南米の金融センターにするという野心を抱いている。
アルゼンチンには600億ドルの外貨準備高がある。
それに対してIMFはなお3億ドルの融資の契約を取り付けた。
そのことが決まった5月9日以降アルゼンチン・ペソの急落は一旦止まっている。
新興国の通貨は30~40%は平気で上がったり下がったりする。
テンプルトン・エマージング・マーケッツ・グループのマーク・モビアス氏は新興国通貨とか激動の中の激動の国の株とかに投資することで著名な「教祖」的な存在であり、97年・98年のアジア通貨危機、ロシア通貨危機、08年のリーマンショック時、こういう時には新興国の株式投資で成功した。
リーマンショックの混乱が続く09年春、彼は東京にいた。
そしてWe are in kids in the candy shop.「我々はキャンデイ屋にいる子供みたいで『あれも欲しい、これも欲しい』と欲しいものがたくさんあって目移りして仕方がない」と言った話しは有名である。
教祖テンプルトンはイエール大学からイギリスのボストンかケンブリッジに留学しているときにアメリカが第二次世界大戦に参戦することを知って、1ドル割れの104銘柄を全部買った。
そして10年後に大金持ちになった。
この教祖のDNAを受け継ぐモビアス運用部長の話をした。
彼らは動乱の中にチャンスを見出す。
筆者が4年ほど前にウクライナが銃撃戦の最中にウクライナ国債を買った。
60ポイントで買ってうまくいけば100ポイントで償還されるが、ウクライナという国家そのものが存続するかどうかも判らない時代であった。
読売ホールで行われたセミナーのパネルディスカッションのパネラーの一人であった筆者が「ウクライナ国債を買ってみた」と言ったら会場からドッと笑い声が起きた。
しかし、そのウクライナ国債は60ポイントで買って短期間に80ポイントで利食いできた。
償還まで待てば100ポイントで戻ってきたかもしれない。
この時、背景にプーチンがいた。
その時「プーチノロジー(プーチン学)」というのがあってプーチンの人となりや性格を伝える大著が出て、それを読んでいた筆者は「この男がついているならウクライナは存続する。
存続する以上は国債は10%やその辺のカットはあったとしても、ほとんど償還されるはずだ」と賭けた。
60ポイントで買って極めて短期間で80ポイントで売ってしまった。
また、ソ連が崩壊してロシアになった時にあの混乱の中でエリツィン大統領のときはロシアルーブルは1円だった。
それを買った筆者はプーチンが就任して5円になったときに一部はもちろん利食いしたけれども一部は温存した(残念ながら3分の1になった現在でも持続中)。
しかし、世界一の地主であり世界で一二番目の産油国であり、世界一狡知に富む、世界一奸智に富むプーチンが率いる国だ。
筆者はその指導者の能力を信ずる。
好き嫌いや善悪は別だ。
奸智、狡知と言うけれども、以前にも既述したがこれを楠木正成や諸葛孔明が用いれば武略となり知略という。
立場によって違う。
問題は能力である。
ところでトルコリラも一旦反発したが、また最安値を切った。
これも筆者は長期的な意味ではむしろここが買うところだと思っている。
筆者はこれを60円の頃に買って80円で利食いした時代があった。
10年ぐらい前のことだ。
また南アフリカランドは16円で買って14円で損切りして投げたこともあった。
そしてまた07円で買い直した。
新興国通貨には当然リスクはある。
激動もする。
だから面白いのだ。
最安値を切ったからと心配したりすることがないように始めから格付けの高い高利回り債で運用する。
そして通貨の値下がりは高利回りでヘッジできるようにする。
それでもなお配当の累計まで含めて元本を割る場合もある。
そういうことをいちいち心配するならば、そういうものには手を出さないと決めるしかない。
自分の投資態度の決め方による。
大げさな言葉で言えば投資哲学による。
それこそ相場道というものだ。
アルゼンチン・ペソとトルコ・リラの下落が目立つ。
この二つともに「動画」で触れたことであるから本稿で取り上げない訳にはいかない。
リーマンショック以来の超金融緩和が「正常化」するにつれて、経常赤字を抱える新興国はマイナスの影響を受けることはあらかじめ判っていることではあるが、その動向はかなり強烈である。
私事にわたって恐縮だが、筆者もアルゼンチン・ペソに対しても、トルコ・リラに対しても利回りを目的とした中長期投資は少なからず行ってきた。
既得利息の累計から通貨安による元本の現象を差し引いたものが6~7%になれば次々と利食いをしてきたが、実情を申せば今のところアルゼンチンとトルコ通貨で買った全ての銘柄が評価損を出している状態になっている。
こういう事は過去のロシア・ルーブルでも経験したし、メキシコ・ペソでも経験したし、南アのランドでも経験した。
その時の体験智から言えば、決して慌てないことだ。
短期売買の勝負事としてやったことなら失敗したと決まったら投げは早い方が良い。
しかし、利回りを目的として対象国の国柄・指導者の考え方・地政学上の位置・経済力などを綜合的に見て中長期で投資した場合は慌てないほうが良いと思うようになった。
エリツィンの時に1円まで下落したロシア・ルーブルはプーチン就任時に一瞬5円まで上がったということもある。
オーストラリア・ドルも80円で買って60円まで下がったものが、90円まで戻ったこともある。
トルコ・リラも70円から60円まで下がった後80円まで戻ったこともある。
だからとて今回もそのようなことになるとは限らないが、ここはアルゼンチンとトルコの内容を調査して方針を考えていくべきところだと思う。
ご関係の読者諸賢もおられるだろうから後日また報告致したい。
この連載について | |
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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