シンギュラリティ(技術的特異点)=「宗教という形態をとらない宗教」か
標題の言葉は佐藤優氏が週刊東洋経済誌3月24日号で用いている言葉であり、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という、AIに関連した宗教だと彼は言う。
経済成長への悲観論が主因となって物価調整後の実質金利が極めて低い水準に止まっている。
このエコノミストの悲観論は経済の中長期の成長率に注目している。
もはや米国の「黄金の60年代」、日本の「高度成長期」のような高成長期はなく、また、2000年をはさんだ数年間に米国が経験した力強い成長(結果的にはITバブルと呼ばれる)も今はない。
このITバブルも一つの宗教であった。
当時「ニューエコノミー論」が流行り、ITによって在庫管理が進み、経済が進んでいくから景気循環はなくなる、景気循環消滅論が流行った。
これも一種の「宗教の形をとらない宗教だ」と一部の冷めた人々(筆者を含む)は思っていた。
数学者ジョン・フォイ・ノイマンのシンギュラリティ理論を一部の科学者は現在説いている。
知能を持った機械の完成度が高まり人間の手を経ないで機械が自ら新しい機械を生み出す能力を持つ時代が訪れ、技術進化が爆発的に突然にブレークスルーするようになるという理論である。
約30年前の映画「ターミネーター」を思い出す。
想像を絶するスピードで進む技術進化は倫理的影響を無視して進む。
これがシンギュラリティ理論の結果するところであり、このシンギュラリティ理論が在る限りは経済成長は衰えないという考えが一部の科学者の中にある。
エコノミストの長期悲観的な見方と一部科学者の希望的観測とのどちらが正しいのか、それを見極めるのは難しい。
しかし、筆者は思う。
数学はそれ自体は厳密に言えば科学ではない。
数学理論は現象を観察することから帰納法的に積み上げた理論ではない。
ピタゴラスの定理やユークリッド幾何学のように「もともと在ったもの」を人間が「発見する」ものであるから、厳密に言うとこれは帰納法でも演繹法でもないから科学の方法とは異なる。
アルフレッド・マーシャルとかレオン・ワルラスなどのようにケインズが「新古典派」と称した20世紀初頭の英国から発生した経済学は数学を取り入れて「利用した」のである。
そのために経済学は他の社会科学よりも飛躍的な進歩を成した。
市場理論においても数学を駆使することが多い。
卑近な例で言えば、本稿でも反発率(ニュートンの発想から来る)の「倍返し」とか貫性の法則(ニュートンの)から来る順張りとか、黄金分割とかいうように数学や物理学を「利用」することが時々ある。
だが、これは経済学や市場理論に数学が取って代わるということではなく、数学は「利用されるためのもの」である。
筆者はそう考える。
したがってAIについての基本的な態度もそう考える。
AIがもたらす成長力はかなり大きいものを期待できるであろう。
従来、人間と馬がやっていた肉体労働を蒸気機関が取って代わり、それが電気に取って代わり、人間は頭脳労働(勿論、自動車運転を含む)に専念するようになると思えば、今度はその頭脳労働までAIが取って代わる。
一部分は、あるいは大部分はそういう面が大いにあるであろう。
しかし、これはAIそのものも人間が支配するものであり、人間の支配を離れて自己完結的に経済が成長するとかいう問題ではない。
以上は理論的な根拠を示すことはできない。
筆者の言わば「常識の範囲」である。
この連載について | |
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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