「好景気の実感がない」
標題の通りに一般に言われている。
週刊東洋経済誌3月10日号の巻頭評論に「何故景気回復に実感がないのか」と元経企庁官僚の小峰隆夫氏が書いている。
この内容とは別にこの標題について筆者の考えを簡単に要約する。
およそ、元気・気分・ヤル気・雰囲気などと「気」と付く言葉は定義しにくい。
普通は定義しないで使っている。
ところが1960年に旧経済企画庁はいくつかの経済指標を用いてそれを定義した。
そしてそれを「景気動向指数」として加工統計を開発した。
その後何度も「改善」されて今日に至ったが、現在ではOECDやIMFからも世界一流と信任されている指標となった。
その景気動向指数の定義によれば、
「谷」→「回復期」→「拡大期」→「山」→「後退期」→「縮小期」→「谷」
という循環を成し、今は第16循環目に入っている。
これは恣意的な指標ではなく、29系列の経済指標を用いた加工統計であり、政権の意向や各省庁の意向に関係なく機械的に出されるものである。
これによれば戦後15回の激循環の中で最長のものは2002年2月から08年までの73ヶ月で小泉政権時代のものである。
これが「いざなぎ超え」と言われるものである。
その前が60年10月から70年7月までの「いざなぎ景気」であった(そこまでは「特需景気」・神武天皇以来だから「神武景気」・それより古い天の岩戸以来だから「岩戸景気」、それよりも古くいざなぎのみこと以来だから「いざなぎ景気」というように経企庁が景気の一循環ごとに愛称を付けた)。
ところで史上最長の73ヶ月間の小泉政権時代の景気(株で言えば郵政改革相場)は愛称がついていないが、経企庁が付けたものではないが一般に「いざなぎ超え」と言われてきた。
それが戦後最長で来年の1月まで拡大期が続けば今回第16循環が戦後最長となる。
ところで「景気回復の実感がない」「好景気が長く続いてきたという実感がない」と世間で言うが、「実感」の定義が不明である。
定義がない限りは実感があるかないかの検証は出来ない。
客観的な論理にはなり得ない。
02年2月から08年2月までの73ケ月の戦後最長景気、俗に「いざなぎ超え」のときも実感がない、実感がないと繰り返し言われた。
世間の多くの人は自分自身の経済情勢が余程向上しないと実感がないとする。
今回も「実感があった」と言うのは資本市場に参加して自分の金融資産を(平均株価並みに言えば2.8倍、ドル預金で言えば1・6倍、あるいはそれ以上のもの、またはそこまで行かなくてもそれに近い状態で金融資産を増やすことが出来た者)以外実感はないであろう。
それならば「実感を得たければ資本市場で金融資産を増やせ。それをしないから実感がうまれないのだ、だから実感がないと言う者は金融市場に参画して積極的に行動するだけの熱意がなかったからだ、自業自得だ」と筆者は主張するわけでは決してない。
だが、今書いた極論は一部分だけだが事実である。
金融資産を1億円以上持っている人は10年前の統計で約76万人だった。
今は100万人以上であろう。
これは不動産や自宅や賃貸マンションを除いて金融資産からローンを差し引いた金額である。
この人々は少なくとも「実感」があったに違いない。
と言ってもそれは約8%未満にすぎない。
その8%弱の人々の感じ取り方が正しくて「実感がないと感じる人々」の感じ方が正しくないとは筆者はひとことも言っていないし思ってもいない。
実体は、賃金の増え方が金融資産の増え方よりもずっと低く消費が振るわないからであろう。
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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