「適温相場」の賞味期限
元々この言葉は英国の童話「三匹のクマ」に登場する少女であるゴルディロックスに由来するものを日経新聞が流行させた言葉だと思う。
筆者に言わせれば、「定義できない、いい加減な比喩」だ。
今回もまた米国発で始まった急落である。
急落の衝撃は金利上昇をきっかけにして「適温相場」と称する、筆者に言わせれば「暴飲暴食の相場」が一斉に荒れた点にあり、いわゆる「恐怖指数」(VIX指数)という、市場参加者の株価変動予測を示す数値は5日の日に過去最大の数値を記録した。
15日(木)の日経新聞の一面に「迫る適温の賞味期限」という三段抜きの解説記事があり、そこに「投資家は金融危機に痛い目に遭ったのに何故慢心したのか」とある。
「極度の楽観に傾いたのはこの1年半のこと」とある。
米国は2年前の15年末に金融引き締めに転じ、「適温相場」からの脱出を婉曲に薦めてきた。
「金融危機に痛い目に遭ったのに何故慢心したのか」という日経新聞の問いに対して答えは簡単だ。
これが人間の「性(さが)」、または「業(ごう)」というものである。
これは歴史上、何度でも繰り返す。
いわゆる「適温」は中央銀行が資金を大量に供給し続けた異常事態で成り立っていたのだ。
こんなことは誰でも承知していたはずのことだ。
この暴飲暴食相場が終わる時に、あるいはユーフォーリアが終わる時は、原因が市場外部から来ることもあるし市場内部要因の場合もあり、それぞれ原因は異なるが必ず崩壊は起きる。
「黄金の60年」はベトナム戦の後遺症もあったが金融引き締めが契機だった。
90年後半は金融危機が契機だった。
03年から07年の「適温相場」は住宅バブルがきっかけで弾けた。
契機は全て違う。
が、いつかは弾ける。
だがこれは誰にも予測できない。
せめて客観的でかつ古くから実績のあるデータを参考にしながら投資家本人が用心しつつかからなければならない、ということだけだ。
例えば、本稿によく出てくるバフェット指数、または俗称山崎指数、またはロバート・シラーのPERなどである。
元来金融経済学者であり、後に行動経済学者として2013年(頃)にノーベル経済学賞を序章したロバート・シラー教授は、10年間の一株当たり純利益の移動平均を作成し、そこにインフレ率とデフレ率を調整した彼独特のPERがある。
これを「シラーPER」と呼んでいる。
図表付き週報には石原氏が掲載したし、「動画」でもこれで解説させてもらった。
これによるとNYは夙に1929年当時と同じレベルであったし、リーマンショック時を遙かに超えていた。
「適温相場」の終わりの始まり
適温相場とはおそらく日経新聞が流行らせた言葉だと思う。
19,000円台の時も適温相場と言っていたし、24,000円に近い時も適温相場と言っている。
これほどいい加減な言葉はない。
何が適温なものか。
売り方にとっては高すぎるから売るのであり、買い方にとっては安すぎるから買うのである。
同じ数値でも立場が違うと高すぎるし安すぎる。
適温相場ほどいい加減なものはない。
これはイギリスのゴルディロックスの童話からとった適温スープからの造語であろうが、これほどいい加減な言葉はない。
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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