投機の流儀 セレクション【vol.48】短期的なトレンドやボトムの形成者――「株と絵は遠くから見よ」

短期的なトレンドやボトムの形成者――「株と絵は遠くから見よ」

直近で言えば11月9日(木)の午後の前半、一瞬で日経平均で860円幅を動かし東京市場を震撼せしめたのは、もちろん、短期売買筋が仕掛けた動きである。
必ずしも海外投資家の短期筋とは限らない。
証券会社が自己資金で運用する自己勘定運用業者は、一匹オオカミ的独立者として市場を自在に動く。
そのトレーディングルームに1年に2~3回、社長と同行で「見物」に入ることがある。
室内は電子機材保護のために、夏でも初冬ぐらいの寒さで社員数名が冬着で黙々と相場表の画面を見て黙々とキーを叩く。
そこには会長も社長も寄せ付けない。
もちろん彼らの年収は運用実績に比例して支払われる。
億単位の収入もマイナスの収入もあり得る。
筆者の知っている、ある中堅証券会社はディーリング部門で年間通しで赤字を出した年がない。
サブプライム破綻の時もリーマンショックの時もである。
彼らは運用実績次第で年収が何倍にもなるしマイナスになることもある。
したがって、日々刻々が真剣勝負なのだ。
この連中が個人投資家や外国投資家の空売りがたまりにたまったところを見計らって踏み上げさせるべく、先物主導で日経平均だけ釣り上げ、この動きに海外の短期筋が同調し(国内の自己勘定運用業者が先か海外の短期筋が先か、どちらが先に出るか判らないが)、彼らがまるで談合して見計らったように売り方に踏み上げさせ、出遅れ筋に慌てて買わせ、そこへ自分で買った玉をぶつけて利食いし、そこから売り叩き、一般投資家の狼狽売りを誘い、諦めの投げを誘い、さらに売り叩いて追撃戦をかける(追撃戦が最も効果があるという)。
つまりヒゲの部分が彼らにとっておいしいのだ。
上ヒゲでも下ヒゲでもヒゲの部分が一番おいしいのだ。
上へでも下へでも激動さえすればいいのだ。
9日(木曜日)の午後の一瞬、東京証券市場を震撼させた動き、昨年11月、トランプ当選の朝の1,000円安から1,000円高への動き。
こういう短期的なトップやボトムは彼らが誘導して形成してしまうと言って過言ではない。
そしてこれが短期筋を震撼せしめるだけならいいけれども、用心しなければいけないのは、これがきっかけとなってバイイング・クライマックスをつくって相場の大天井をつくり、セリング・クライマックスをつくって相場の大きな流れを変えて大底をつくってしまうというきっかけづくりになり得るから、この一匹狼の存在は無視できない。
こういう動きはおそらく大昔もあったのであろう。
今は機械でやるから素早い。
東京証券取引所が1000分の9秒で取引できるようにしたというが、1000分の9秒の速さなど普通の投資家には必要ないのだ。
が、彼らにとってはそれが命なのだ。
その代わり彼らは自分に課した律法に厳しく、筆者が目の前で見たのは、シャープの転換社債を筆者は50円割れで買い80円で売ったけれども(この時の株価は160~170円していたから破綻はしないと信じていた)、彼らは50円割れを一斉に投げていた。
何故破綻する株価でもないのに、こんな安いところを投げるのかと勿論訊く暇もない。
彼らは終始無言である。
会長も社長も無視する。
おそらく、いや、必ず、彼らに課せられたロスカットシステムによって一定の下げが来たら理由を問わず投げる、空売りしたものが一定限度上がったら理由を問わず手仕舞う、という決まりに従っているのであろう。
それがシャープの転換社債の投げのように結果的には投げないで粘った者が勝ちであり、投げた人は大底を投げたことになるが、筆者が知っている彼らはどんな年でも年間を通じて赤字を出したことはない。
この会社のディーリング部門は常に黒字である。
彼らの姿をたまに見らからこそ筆者は、「短期勝負ではとてもこういう連中にはかなわないし、これに乗ろうとしても結果的には振り回されるだけだ」と熟知しているつもりである。
よって、大勢を見て中期的に長期的にバイ・アンド・ホールド、買って持続する、売ったら何も買わないでキャッシュポジションを高めて次の機会を待つ、という方法をとるのが一番無難だということを熟知しているつもりである。
現職時代に「ヒバカリ商い」と称して数分の間に顧客に売買を完結させることを時々やっては出来高を稼いだ。
このやり方はエキサイティングだし、面白いし、勢いに乗れば気持ちのいいほど当り続けるが、1回の暴落で10回分の利益が全部消える。
こういうやり方では結局は金融資産の構築が出来ないということを現職時代から筆者は見ていた。
本稿でも紹介した紀州南部の元町長Tさんのようなやり方がいいのだ。
筆者が自分でやる時はこうしよう、といざなぎ景気の最初から最後までを和歌山支店で目の前で見た。
それに比べて今紹介した一匹オオカミたちの動きは何の参考にもならず、「こういう連中に振り回されてはならない」、「そしてこういう連中が大勢のバイイング・クライマックスやセリング・クライマックスをつくって大勢の大天井を決めたり大底を決めたりするきっかけをつくる場合があるから(振り回されてはならないが)この動きは見ていなければならない。
この動きは相場の動きとして遠くから見ていなくてはならないと思った。
「株と絵は遠くから見よ(「絵は」を「女は」という先輩もいた)」という口伝があったのを思い出す。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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