投機の流儀 セレクション【vol.47】FRB次期議長について

FRB次期議長について

金融引き締めについて穏健にやっていく、ゆっくりやっていく、急激な引き締めはしないという方針を「ハト派」と市場で言われているので、本稿でも今後この言葉を使う。
パウエル氏は元来ハト派だと見られている。
現イエレン、その前のバーナンキともに経済学者だったが、パウエル氏は経済学者ではない。ウォール街の実務家出身である。
パウエル氏はイエレン前議長の政策を引き継いで慎重に金融政策の「正常化」を進めるという見方から、NY市場は株も債権も上向きに反応した。
オバマを全面的に否定するトランプとしては、「イエレン女史はいい仕事をしている」と何回も評していたが、すべてをトランプ色に染めたいのであろう。
「FRB人事にも自分の印を付けたい」と語っていたそうだ(新聞紙面による)。FRB人事の本番はこれからだ。
金融政策担当の副議長をはじめ7つの理事のポストが替わることになる。
その人事次第ではパウエル氏もFRBも大きく変わってくる可能性もある。
パウエル氏は穏健でコンセンサスビルダー(市場の合意形成を重んずる人)という評判だったそうだから、自説よりもメンバーの意見を尊重しながら現実的な対応をとっていく姿をとるであろう。

ところでパウエル氏は単純なハト派とは言えない話もある。
FRB理事に就任した翌年の2013年、同氏は大規模待量的緩和が長引くことに懸念を示したという。
他の2~3人の理事とともにこういう大規模な量的緩和が長引くことは将来の金融不安定につながると語ったという(これは出典は日経ヴェリタス11月5日から11日号、6ページ)。
理事の任期は14年と決まっている。
トランプは理事のポストの大半を自分の意志で示すチャンスを手にしようとしている。
ここにFRB新体制の大きな問題点があるかもしれない。

パウエル氏を株式市場は歓迎

NY市場の人物評価は何がどうなっているのかよく判らない。
トランプが大統領に当選した途端に朝は大暴落した。
あっという間に大暴騰して、トランプラリーにつながった。
「将来のことはどうでもいいから、稼げる時に稼いでおこう」という姿勢でトランプ発言の株式市場に有利な点だけをことさらに取り上げて、トランプラリーをつくり上げた。
同じようなことはパウエル新FRB議長についても言えるかもしれない。
タカ派であるウォーシュ元FRB理事や経済指標をもとに機械的に政策を決めようとしているテイラー・ルールのジョン・テイラー(米スタンフォード大教授)などが議長に寄与されれば、市場の攪乱要因と見られていたが、タカ派でもなく経済指標派でもないコンセンサス・ビルダーのパウエル氏が議長になったことでその良い面だけを取り上げて、トランプラリーの発動のようにNY市場は動く可能性もある。
こうなると日経平均は21年前の高値を抜いて、そのまた1割上、つまり25,000円ぐらいを目指す可能性がないとも限らない。
しかし筆者はこの可能性は極めて薄いと考える。

2018年にはFRBのタカ派色を強めるか

18年にはタカ派色が強まる見方も浮上している。
根拠となるのがFOMCメンバーの投票権の入れ替えだ。
パウエル新議長はハト派とされるが、新体制での円安ドル高シナリオが現実味を帯びる。
今後数年間は緩やかなベースであっても金利を引き上げていくことになるわけだから、理論的には緩やかなドル高(=緩やかな円安)となろう。
そうなればドル資産を持っている者が有利になるし、また輸出業者が有利になる。
輸出立国の日本の企業は有利になる。
よって大幅な上方修正もあり得る。
したがって、タカ派が金融引き締めに動けば、
ドル高を招く→円安を招く→日本株に有利という動き(A)
かまたは、
タカ派が活動し→金利を引き上げる→金利上昇は本質的には株価下落→NY株下落→日本株下落(B)
このAとBとのいずれの経路をたどるのか。
来年は利上げに前向きなタカ派が増えるとアメリカ通の者は言うし、今年は緩和縮小し消極的なハト派が多いが、来年はタカ派が並ぶというアメリカ通もいる。
現にFRBを構成する連銀総裁の中には現タカ派も少なくない。
よって1ドル120円の大台も現実のものとなる可能性があろう。
現に一昨年の第二波動(本稿で言う壮年期相場の大天井)の21,000円弱の時は、円ドル相場は105.8円であった。
それに比べると今の114円であの時代よりも1割上の日経平均は、ドル円相場と日経平均との連動性から見ると辻褄が合わなくなる。
いずれはその辻褄が合う時が来るものとすれば、相当幅の円安ドル高が今から起こる可能性もあり得る。

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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