投機の流儀 セレクション【vol.31】少々理屈を言わせてもらう

国の将来を憂えるという国士気取りで言う理屈ではない。
これから言おうとするのは、株式市場の長期見通しに関するもので、極めて現世的なものだ。

21日付日経のコラム「大機小機」に、「磐則」というペンネームで書かれている意見は概ね筆者と同じである。
既報で既述の通り、日銀の日本株保有残高は17兆円、発行済み株式総数の5%以上を保有する企業が83社、GPIFによる日本株の保有額は35兆円以上、GPIFが筆頭株主である企業が続々増えている。
ここで問題は日銀による議決権行使の問題である。
日銀が大株主に名を連ねる会社がたくさん出てきた。
そして、日銀は「モノ言わぬ株主だ」と既報で述べたが、日銀による議決権行使の指針はそうではない。
日銀の経済的利益の増大を目的として、株主の利益を最大にするように企業経営が行われるように議決権を日銀は行使すべきだとされている。
しかし、企業経営は株主の利益のために経営せよという主張は、定款目的を越える違法経営と紙一重だ。
企業経営は本来は長年培ってきたミッションを最大限実現することに費やされるべきであって、株主の利益のためにのみ経営されるのではないからだ。
株主価値の最大化とは、個人や市民という社会の主権者が株主であることを前提にしている、欧州で認められてきた概念であり、株主の属性を無視して、株主かつ最大化を主張するのは本当は定款目的に反することも大いにあり得る。
日銀が自分の利益最大化を株主利益最大化と同視していることは、企業社会の在り方に対する洞察を欠くということになる。
政府は株価を高く維持しようという方針である。
日銀の株主価値最大化の意図は政府の方針には叶うが、長期的に企業が定款目的を達成するために動くか否かということとは別問題である。

こういう理屈は、日本国の株式市場と日銀の在り方に対して、国を憂えるという国士気取りで言っているのではない。
前述したように、株式市場の長期的に見た逆流現象があり得るという恐れを憂えるのだ。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

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