投機の流儀 セレクション【vol.186】コロナ禍があぶり出した日本企業の強み

所謂「失われた20年」(90年~2010年)に比べると日本経済そのものがはるかに強くなったことは事実だ。安倍政権に対する批判が集まっているが、安倍政権発足と同時ぐらいから日本経済そのものが強くなったことは事実だ。
「失われた20年」は輸出企業が好調だったが内需頼みの産業は伸び悩んでいた。当時企業経営を圧迫していたのは「3つの過剰」と言われた雇用・設備・債務の過剰である。今やそれは大企業にとっては皆無と言っていいだろう。
「失われた20年」で貸し渋りや貸し剥がしにあって痛い目に遭った日本企業はコツコツと内部留保を増やしてきた。今や時価総額の80%前後の内部留保がある。自分の会社を丸ごと買ってしまう資力の約8割を自社内で持っているということになる。そんなに金を持っているならば配当を増やすか自社株買いをやれと「もの言う株主」は騒いだが、コロナ禍で経済活動が急停止すると社内に貯め込んでいた金がモノを言うようになった。「もの言う株主」から散々悪く言われた利益剰余金が今はモノを言うようになったのだ。

アメリカは今年3月に失業率は4.4%だったが、5月には13.3%に急増した。日本は同期間に2.5%から2.9%に増えただけだ。従業員の扱いでも日本式は有効だったのだ。
「人員の合理化」についてはカルロス・ゴーン氏が日産自動車のCEOに就任した直後、「2万人の従業員を減らす」と発表し日本国内では仰天した。以降日本人はこんなドラスティックことはしなかったけれども従業員の扱いでも着々と有効に動いた。
金融デリバティブの専門家であったナシム・ニコラス・タレブ(★註)によれば日本企業の特徴は「反脆弱性だ」という。つまり「壊滅的な打撃をもたらしうる予想外のショックに対して強い耐性を持つ」という。(米NewsWeek誌7月28日号日本語版)。
室町時代に創業し屋号もビジネスモデルも変えない羊羹の虎屋とか、安土桃山時代に創業し今なお隆盛の竹中工務店等を含め、「創業200年を超える世界の長寿企業」の56%が日本企業だ。

日本企業の改善の多くは安倍政権時代に進んだことは事実だ。安倍批判が盛んな今日、これを言うのは少し時流に反するが事実は事実として列挙しておきたい。
行き過ぎた円高の是正(国際世論まで通貨外交で巻き込んで敢行した)、企業統治の改善・GPIFの運用見直し・外国人労働者の受け入れ拡大、これらは全て安倍政権の実績と見なして良いであろう。
「日本株式会社の対応には合格点を付けていい」(前掲誌)

安倍一強時代は間もなく終わるだろう。そうすると官僚が権力の空白を埋めて政治は停滞期に入るだろう。または官僚主導の逆戻りが起こる場合もあり得る。日本株式会社そのものは盤石ではないが、少なくとも日本企業はかなり強くなったことは事実だとしておこう。
(★註)ナシム・ニコラス・タレブ(英: Nassim Nicholas Talebは、随筆家、認識論者、研究者であり、かつては数理デリバティブの実践者だった。金融の専門家であり、金融業界の有名人である。ウォール街でデリバティブトレーダーとして長年働き、その後認識論の研究者となった。主に、理解していない世界でどのように暮らし行動すべきか、偶然性と未知のことにどのように真剣に取り組むか、などを研究しており、予期しない稀な現象に関するブラックスワン理論などを提唱している]。また、2008年に始まった金融危機の後で、”Black Swan robust society” を立ち上げ、活動している。
その執筆スタイルは、非常に特殊であり、しばしば自伝的な口語調のフィクションや哲学的物語に歴史的または科学的注釈を加えたものである。

【目次】
第1部 当面の市況
(1)週明けは株も為替も落ち着いて始まろうが、先週末は、上値の重かった日本株に加えて決算悪の売り、世界経済の悪化の売り、円高の売り、週末にこれらが重なった
(2)週末・兼・月末は1か月ぶりの2万2000円割れ―アベノミクス相場の大天井以来,コロナ禍の寸前までの平均値2万1850円を割り込み、200日平均線をも割り込んだ、これは、この1年間に買った投資家は全部の持ち玉が評価損を出したという水準になる
(3)当面の市況の見方にも長期的にも影響する日経新聞社と民間28社の予測を要約する―― 3月19日のような「陰の極」に近づいたら万人弱気の中で果敢に買い下がりを始めねばならい、時間分散して買い下がるのだ、ということになる
(4)先週の週明けは日中値幅が311円幅で3週間ぶりの大きさ、週末には日中値幅585円の大きさ
(5)夏枯れ相場の中、自社株買いに的
(6)コロナ禍があぶり出した日本企業の強み
(7)27日から本格化した4~6月期決算発表
(8)米テスラ株価が示すもの
第2部 中長期の見方
(1)「世界経済、V字型回復は困難」
(2)世界経済「V字型回復」という見方の始動点は不明瞭だ
(3)筆者が信用する人々の言い分――「不景気の株高」現象
(4)米中対立、米は対中路線を大幅に変更した
(5)日本株の長期保有者は日銀と海外勢になってしまう
(6)世界的なコロナ新規感染拡大が焙り出したトランプの正体
(7)中国・香港株、売買両勢力が噛み合う推移か
(8)日本の「一人当たり個人金融資産」と「個人金融資産/政府債務、の割合」、世界34ヶ国の比較で
(9)電力の脱石炭のテーマ
(10)「社会課題解決応援ファンド」
(11)ユーロ急上昇1年半ぶりの高値
(12)中長期の見方
(13)「コロナ前から続いていた金融緩和」と「コロナで起こした超金融緩和」はインフレを招くことはない
(14)東電、柏崎原発2基が稼働すれば東電の経常利益は2000億円上乗せされ、株価は1,000円になる、が、この時代はしばらくは話題にならない
(15)墓穴を掘る中国
(16)バイデン政権になったらどうなるか
(17)投資ファンドをAIで運用すればどうなるか

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

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