投機の流儀 セレクション【vol.158】ゴーン氏に完敗の日本

知力・財力・ネットワークに長けた古代フェニキア商人の末裔は、完全に日本国を出し抜いて目的を遂げた。そのために彼は莫大なカネを使ったであろうが彼は採算は取れると踏んだ。彼の肩を持つわけではないがフェニキア商人の末裔は流石であった。

筆者は決してゴーン氏の肩を持つわけではないが、今回の事件は完全に法治国家の日本が出し抜かれ完敗した。問題は保釈させた司法制度ではなく、出入国間管理の間抜けな点だ。ついでに言えば、決して聡明とは思えない(
はっきり言えばバカに見える)法務大臣の不見識なスピーチもお笑いだった。茶の間に笑いを呼んだ功績はあったとしよう。彼女のために。

日本の検察の取り調べは弁護士を付けることができない。先進国としては異例だ。検察が望む通りの自白をしない限り、拷問に等しい手段で拘留される。これは殴ったり電気を通したりの拷問ではないが、実質的には拷問である。そしてこの拷問のためにオリンパス事件に関与して47日間拷問を受けた筆者の友人は完全に閉所恐怖症に陥り、それから逃れたいために検事に迎合して検察が望む通りのことを述べそれにサインした。それは物的証拠となって東京地裁にも高裁にも最高裁にも持ち込まれる。一人歩きする。長期拘留の圧力に耐えられず、拷問から逃れるために自分の意思に反する供述を行った被疑者はおそらく何人もいるだろう。起訴されたら99%以上が有罪だというのは、有罪に値しないものは綿密に吟味して最初から起訴しないという意味でもあり、日本の検察の手堅さを物語っているという見方もあるが、検察が気に入るような供述をするまでは拷問をかけるという司法制度に問題がある。ついでに言えば、筆者の経験でいうと、法廷へ出てからの判事にも日本は大いに問題がある。
弁護側から出た何千頁もの書類も検察側からの何千頁の書類も、おそらく判事は読んでない。裁判の途中で転勤があるし、新任の判事は膨大な書類に目を通すことは物理的に不可能だと筆者は(邪推する)。

取り調べに弁護士を呼べないのが問題である。おそらく先進国にはないか、珍しい例だろう。
ゴーン氏は日本から不法出国したが、レバノンには合法的入国である。したがって、レバノン政府は彼を追い出しはしない。また、日本とレバノンは犯罪人引渡条約を締結していないからゴーンを日本に引き渡すこともしない。

ゴーン被告には逃亡を実行する能力と財力があった。能力というのは彼を助けるネットワークである。元外務省官僚の佐藤優氏のコラムによれば「一部の軍事請負会社、民間整備保証会社の形態をとっている」であり「そこには米CIAや英MI6やイスラエルのモサドやロシアのKGBに勤務経験がある有能な工作員が働いている」。彼らに働きかけて、「工作員の能力は高いが金で動く」「軍事請負会社の関与なくしてゴーン氏の逃亡はできなかったろう」「軍事請負会社に巨額の成功報酬を払ったと思う。筆者の推定では数十億円だ」(週刊東洋経済誌1月18日号)。

没収された15億円の保釈金の他に佐藤氏が言うように数十億円の費用をかけて脱出したとしてもゴーン氏にとってもそれは充分に勘定に見合うものであろう。

彼が手記を書けば世界的ベストセラーになって20~30億円の印税が入るだろうし、映画化もされるだろうし、それは「実録映画」となって人気を呼び、次に「実録をもとにした映画である」という講釈付きでまた映画になり、これも莫大な興行収入を生む。今度の事件でゴーン被告は経済的にも大きな利益を得る機会をつくったと思う。

ゴーン被告の知力と財力と行動力に日本は完敗したのだ。ここが二千数百年前から脈々と受け継いだフェニキア商人の真骨頂だとういうことになる。こう言うと筆者がゴーン氏に肩入れしているように聞こえるが決してそういうつまりではない。思うところを述べたまでだ。
 
【今週号の目次】
第1部 当面の市況
第2部 中長期の見方
第3部 ゴーン氏に完敗の日本
第4部 読者との交信欄(便宜上、番号を筆者付す)
 
【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。
 

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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