投機の流儀 セレクション【vol.148】来年アメリカ大統領選挙は日本にとって好都合な大統領が誕生することはあり得ない。だが、ヒラリー・クリントンガ出れば急変する

トランプが勝ってもウォーレンが勝っても同じことが言える。トランプはこの3年間、国際秩序を破壊してきた。まず、日米含めた膨大なGDPの量で中国を取り囲み、太平洋を持っていない中国に対する巨大な包囲網を構築するというオバマのTPP構想をトランプは就任早々破壊し、ついで米中貿易戦争を仕掛けた。それに対して中国は「(大航海時代より半世紀以上前に)6世紀前に俺たちがやったことだ」と16世紀前半の鄭和艦隊(ていわかんたい)が2万人を率いてインド洋・太平洋を7回航海してアフリカまで行った。この中国明国の大航海時代を習近平は6世紀前に俺たちがやったことだとして全く同じ地図を「一帯一路」の「一帯」として描いている。トランプはこの3年間世界秩序を破壊してきたが、その中には「トランプでなくてもやったであろう」という米国の伝統的な行動原理も入っている。
もともとアメリカの孤立主義という考えは独立宣言以降、それから半世紀後のモンロー主義で確認され、本来他国と交わらなくても独立して生きていける鉄鉱石・原油資源・食料資源を有する北米大陸を持っている。もともとアメリカには孤立主義の伝統が潜在的にはある。これを「理念の合衆国」で乗り越えてリードしてきたのだ。トランプはもともとアメリカが持っていた伝統をあからさまに口にして行動化したのだ。
また、特殊部隊による国際テロ組織指導者への襲撃はオバマ政権も行った。しかもヒラリー・クリントン女史が国務長官として指導した。
このようにアメリカの伝統にはトランプでもなくても他の大統領でも行ったであろうことも含まれてはいる。
もし、民主党のウォーレン上院議員が大統領になったとしても彼女が抱える対富裕層増税や大型ネット企業の破壊は米景気も世界景気も冷やす懸念は大いにある。要するに日本にとって都合のいい大統領はいずれにしても生まれないと見たほうが良い。

尤も、大統領選の5合目くらいで、ヒラリー・クリントンが再々出馬すれば、世界は変わるだろう。
彼女が書いた自慢げな半生伝「困難な選択(★註1)」によれば、なかなか野心的な女だ。不確かな情報の下でオサマ・ビン・ラディンをヤッタのは私だと自己顕示欲マル出しの女だ。三度、大統領選挙に出馬する可能性はある。さすれば今回はトランプ台風の後の洗礼を受けて先回とはヒラリーへの見方が激変しよう。少なくとも筆者ならそうなる。

トランプ大統領とウォーレン候補との関係は一種の共通性があり、「高学歴エリート」対「低学歴白人労働者」の階級闘争であるとすれば、1848年に出たマルクスの「共産党宣言」(★註2)の冒頭の「幽霊」「妖怪」はまだ「世界を放浪」していることになる。
(★註1)ヒラリー・クリントン著、日本経済新聞社訳、日本経済新聞出版社、2015年刊)。
(★註2)「共産党宣言」の「ドイツ文への訳文」「英文への訳文」などの長い前文を除けば本編はわずか50ページであり、その書き出しは「今、欧州の4しであるが、彼の説いた対立抗争はトランプにおいて再現されたと言える。
 
【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)2万3500円という「心理的節目」でのこと
(2)三尊天井形成か高値更新か?
(3)世界株高の中に厳しい選別
(4)先週週初は一時470円幅の上昇
(5)9月以降海外投資家は1.6兆円の買い越し、国内金融機関は1.5兆円の売り越
(6)大国の大統領が意図的に「株価操作」をするという先進国が他にあろうか
(7)NYはSP500もダウも史上最高値
(8)出遅れ銘柄群・割安株(バリュー株)の見直し買いの気運
(9)「株高ムードが高まる中で、わずかな変化も見逃したくないという投資家心理を映し出している」
第2部 中長期の見方
(1)トランプの再選はなるか?トランプへの評価が真っ二つに割れている
(2)来年アメリカ大統領選挙は日本にとって好都合な大統領が誕生することはあり得ない。だが、ヒラリー・クリントンガ出れば急変する
(3)長期投資についての一言:
(4)日本企業の決算発表の概観
(5)中長期の見方:経常利益は6年連続で過去最高を記録したが純益は2期連続減少。これは金融危機以来のことだ。
(6)円ドル相場
(7)北方領土問題についての小池都知事の投げた「劇場型政治」の波紋
第3部 「あの人々は今」、どう語っているか
①野村総研・高尾義一氏
②野村総研リチャード・クー氏
③野村証券・植草一秀氏 元京都大学助教授・野村證券・早稲田大学教授の植草氏
④長谷川慶太郎氏
⑤孤高のエコノミスト下村治氏
⑥キッシンジャー
第4部 「合理的市場仮説」
(1)合理的市場仮説
(2)合理的市場仮説論者が好んで使う事例

 
【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。
 

BACK  NEXT

 

この連載について

初回を読む
半世紀にわたる実践投資で得たリターンはおよそ5億円。
博識ゆえ、哲人投資家といわれる著者が実践する、普通の人では看過してしまう独自の習慣とは?どんな相場でも負けない、投資の行動原則とは?
有料メルマガ「まぐまぐ」のマネー部門第1位!
不動の人気を誇る週報「投機の流儀」から、投資に役立つ貴重なセンテンスをセレクト!

【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

電子書籍を読む!

amazon kindle   楽天 kobo