「銀行株に見直し機運」
これは日経新聞10月3日号の記名入り証券記事の見出しである。記名入り記者の個人的主観が多く入っているように見えるが、まずは事実面を略述する。
9月に入って長短金利の差が大きくなったことは事実である。それに並行して業種別に言えば銀行株が上昇したことも事実だ。長短金利差が開けば、銀行のメインビジネスモデルである利鞘をとる業務は利益が増す。
当然に「長短金利差の拡大=利ザヤの拡大=銀行業は利益が出る=銀行株上昇」、という経路をたどるわけだが、9月は総じて割安株(バリュー株とも言われている)が主導した月だった。割安株(バリュー株)の中では造船・海運・銀行が上昇したが、中でも銀行株の上昇率は少なかった。
バリュー株が相場を主導したのは2016年後半もそうであり、これはBREXITショックで壮年期相場の2万900円台の天井形成にとどめを刺して6,000円下がった、その後の出直りであり、老年期相場の始動期に該当する時代だった。
この時は老年期相場にふさわしく、バリュー株が相場を主導した。その頃バリュー株の中ではとりわけ金融株の上昇が目立った。以上は事実である。
次には記名入り証券記事を引用する。
「16年の経験に倣うならば、銀行株に上昇マグマが蓄えられている」(一ポートフォリオ・ストラテジストの言い分の引用)「銀行株に対する市場の悲観論が根深いほど反発力も意外と力強いものとなる可能性も視野に入れておきたい」これは記名入り記事の記者の主観であろう。
筆者はアベノミス始動以来、最もビジネスモデルとして逆境に置かれたのは銀行株だといい続けてきた。したがって、一番先に大底を付けるのも銀行株だろうと言い続けてきたし「動画」でも語ってきた。しかし、「9月に始動し始めた時の銀行株が大底圏内である、したがって今も大底圏内にある」と言うには早すぎるような気がする。大底はそんなに簡単に付けるものではない。
だが「まだはもうなり」という格言があるのは御存知だろう。一体「まだはもうなり」を言いたいのか、「もうはまだなり」を言いたいのか、早急に二者択一を迫るべきではない。これは禅語で言うところの「二見に堕す;にけんにだす」に陥ることであり、剣道の構えで言うところの「居つく(★註)」として型に固定して動きが固くなることを戒める。
(★註)「居つく」として凝固することを避けるために陰流では「構え」と言わずに「無形(むぎょう)の位」と言い、現代剣道ではフットワークをとりながら竹刀の先を常に動きやすいようにしている。幕末の北辰一刀流のこれを他流が評して「剣先を鶺鴒の尾の如く震わせり」と言った。
【今週号の目次】
第1部 当面の市況
(1)9月株式市場を振り返れば
(2)10月という月は上下に激動する月
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