「2000万円問題」金融庁の真意
麻生蔵相が「報告書を受け取らない」と対応したのは「不出来な報告書」
に対する担当大臣の対応として誠にまずかった。「受け取って良く読んでみたが、次の点で前提が稚拙である。①実態は年金だけで暮らす人は52%だが、それを100%と仮定したこと、②65歳以上は全員が年金以外には1円の収入もなく利子収入も配当収入も家賃収入も労働収入も相続収入もゼロ円と仮定したこと、③65歳の人は全員が95歳まで生存すると仮定したこと、その他にも無理な仮定があるがとりあえず最も稚拙な報告書であったことはこの3点で言い尽くせるであろう。
金融庁としては、世論を相当程度に味方につけた一方で、政権与党を敵に回してしまった。無理な前提ではあるが、金融庁が言おうとしていることには実は、国民に少々に刺激を与えて「貯蓄から投資へ」と「積み立てNISAの薦め」を言いたいのであったろう。その意味では一応の正論ではある。
「貯蓄から投資へ」という国是(小泉政権時代や安倍政権発足時代に比べれば今はこの国是は影が薄くなったが)を現実の金銭感覚で国民に浸透させ、NISAの拡大発展を図ろうとする金融庁の意図は全く無理な前提の陰で隠されてしまった。
金融庁の「貯蓄から投資へ」「NISAを発展させる」という本来の意図を国民に判らせることができず、その上に政権与党の不況を買ってしまったことは、報告書担当者の大失敗であったが、これに大いに喜んだのは筆者が思うに公正取引委員会だったろう。
金融庁が進めていた長崎県の地銀の合併問題を公正取引委員会が待ったをかけた。地方経済の疲弊を踏まえ、一方、経営危機に陥った地銀を救済するために促した金融庁の動きは公正取引委員会によって一時止められた。以来、金融庁対公取のわだかまりが続いた。今回の金融庁の失態に喜んだのは公取であろうと筆者は“邪推”している。
「2000万円問題」について野党は7月の参院選を前にして絶好の攻撃材料を見つけたとして批判するだろう。金融庁の真意は「貯蓄から投資へ」の国是を再び顕現し積み立てNISAの宣伝をしたかったのであろう。ところが根本的な前提に無理があったので、その意図はゼロとなった。しかし、金融庁の大雑把すぎる試算でも国民が老後のために「貯蓄から投資へ」に動こうとする動きが少しでも起これば、麻生財相の言った「不安心理」はかえって前向きな駆動力となる。アメリカでつとに普及している401K法のように、金融庁は多少の不安や緊張をもたらす文書を公表することは良いことでもあり必要なことでもあると筆者は思う。
【今週号の目次】
第1部
7月は高く始まろうがその持続性には問題ある。用心深くあれと呼び掛けたい。
G20での「米中雪解け」を市場は評価して7月1日の週明けは買い先行から高く始まろう。しかし、その持続性が問題だ。この際は用心深くあれと呼び掛けたい―5つの下落リスク要因を孕んだ市場
第2部 当面の市況
(1)6月いっぱいの市況を振り返れば…
(2)G20は波乱要因を含みながら前回のような決裂状態は避け得た
(3)「閑散に売りなし」の一方でPERが100倍を超える銘柄が激増
(4)チャートに見る「日経平均200ドルの壁」
(5)「ND倍率」の落ち込みは、日本株が出遅れているということになる
第3部 中長期の見方
(1)中長期の見方:景気下降を予防するための好景気中の予防的利下げ反復は危ない
(2)「大暴落」の前には必ず「熱狂的な陶酔」(ユーフォーリア)がある
(3)中長期の見通し:均衡為替レート
(4)円ドルについて、「緩やかに100円に迫る」
(5)中長期の見方 日本の企業は円高をそれほど恐れていな
(6)中長期の見方 トランプの行動
(7)FRBの政策枠組み議論の過熱の恐れと、日銀が恐れるのは米の本格緩和
(8)諸々の景気指標は低迷している
(9)世界同時バランスシート不況の恐れ
それについての野村総研のリチャード・クー主席研究員
国際金融情報センター玉木理事長の見方
第4部 念のため、筆者の基本的スタンスを要約しておきたいと思う
(1)基本的スタンス
(2)市場経済主義は市場原理主義とは違う
第5部 「2000万円問題」金融庁の真意
第6部 読者との交信蘭
(1)長野県K様との「アルゼンチン・ペソ」について」の交信(6月23日)
筆者からの返信(「回答」になってないが「同病、相哀れむ」というところ)
【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。
なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。
この連載について | |
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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