年金制度の将来について
この標題の件については読者の概ねの方はご関心あるであろう。そこで筆者が数年前に本稿で「年金は破綻していない」「将来不安もない」と書いたこともあるしそれをテーマに講演をしたこともある。
その筆者の思うところを要約したい。
年金の将来不安は、端的に言えば、民主党が政権奪取のためのセールストークとして使ったのだ。民主党は、04年の年金改革の頃から年金不安を煽り、年金は必ず破綻すると主張し続けた。国民の不安を煽って政権奪取する方法はヒトラーがやった方法であり、扇動的民衆指導者の典型である。民主党はこれをやって政権を奪取した。
ついでに言うと、年金は破綻していると言って政権を奪取したような政治家が政党を組んでいる限り、決して自公連立政権にとって代わる政権は絶対に出ない。
与党を牽制する力が日本からなくなってしまったのは民主党の責任であると筆者は言っているのだ。将来に対する大衆の不安を煽って政権を奪取するのは典型的な扇動的民衆指導者である。
こういう政党がいる限り自公連立政権は半永久的に安らかに思っているだろう(故に時々安心しきってしまって傲慢になったり綻びが出たりするのだ)。年金について長く未納だった故に無年金となった「イソップ物語のキリギリス」の例は多いがそれは制度が悪いのではなくてキリギリス本人が悪い。そういう例外的なものを主論として推し進めるべきではない。
そもそも論から言えば、61年に国民皆年金・皆保険が成立した。ところが国民皆保険・皆年金になると規模が大きくなるから保険局の他に年金局がつくられた。その時に国民年金法が成立したが、「国民皆保険・皆年金法」とせず、「国民年金法」にした。ここにボタンの掛け違いがあった。これは筆者と親しい関係ではないが慶応義塾大学の権丈善一教授の述べるところである(★註)。筆者も全くそう思う。皆保険・皆年金になってから58年を経た。年金は保険であることを国民が忘れてしまった。保険局の他に年金局ができたことが一つ。もう一つは法律の名称がそこに原因があった。
年金は保険なのである。日本は国民皆保険の国であり、国民皆年金の国である。確かに福祉年金というものもある。だが、福祉年金の受給者は日本全体で1000人もいないそうだ。「国民年金保険法」として保険という文字を入れれば、「日本は国民皆保険の国だ。だから皆年金の国だ」と国民全体が思うようになるであろう。年金は保険なのだ。その本質を忘れて「積み立て投資信託の積立額がどんどん減っていくから将来の償還額がどんどん減っていく」という錯覚を国民に植え付けたのだ。その錯覚を植え付けたのは他ならぬ民主党の悪辣な扇動的・煽情的手法での政権奪取だったのだ。
こういう政治家がいる限り政権交代は残念ながら起きない。与党の驕りや間違いを牽制する力が働かない。長く年金未納だったがゆえに無年金者になった遊び人のキリギリスの例を一般論とすり替えるべきではない。
(★註)著書に「年金・民主主義・経済学」「ちょっと気になる社会保障」などがある。
「年金、民主主義、経済学 再分配政策の政治経済学Ⅶ」(権丈善一著、慶応義塾大学出版会、2015年刊)。
「ちょっと気になる社会保障、増補版」(権丈善一著、勁草書房、2017年刊)
【今週号の目次】
第1部 低迷相場期間の過ごし方の基本的心得
第2部 当面の市況
(1)年内相場観の「通念」を一口で述べればこうなる
(2)当面のバリュー株相場は株価急落の揺り戻しにすぎない
(3)「閑散に売りなし」、6営業日連続して売買代金が2兆円を下回る閑散状態が続いた
(4)閑散相場の中に無視できない深刻な変化
(5)JPモルガン10日付リポートは日本株の投資判断を「強気」に引き上げた。
(6)海外勢は小型株の成長性に注目し大型株は売却方針
(7)サンドウイッチ状態の持続
(8)最近の世界的な株高は景況感の改善を伴っていない
(9)日銀の利下げを織り込む動きだとする説もある
(10)米利下げが仮に実施されるならば、実体経済にとっては確かにプラス になる
第3部 中長期の見方
(1)国内機関投資家の日本株に対する慎重姿勢は20年ぶりのレベル
(2)「消費税、10月10%」を「骨太素案に明記」
(3)中長期の見方
(4)「米中貿易戦争」の行き着くところ
(5)米景気の先行き不透明感――もともと経済動向と市場は不透明なものだ
(6)世界経済規模の縮小予測値の膨大さ
第4部 トルコ・リラの動向
第5部 年金制度の将来について
第6部 本質的な世界観―「米中が世界の覇権を本格的に争う可能性は低い」
第7部 米・中・ロ・朝の狭間における日本の針路
第8部 北方領土問題
【来週以降の予定項目】
アメリカの世紀は終わったか、に関する一考察
(1)「アメリカの世紀」は続くがそれは変容する
(2)アメリカ衰退論の流行現象はいつ始まるか
(3)「世界の主導権を取る」とはどういうことか
(4)アメリカ衰退論の経緯
(5)「アメリカの世紀」の存続期間
【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。
なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。
この連載について | |
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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。
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