投機の流儀 セレクション【vol.121】野村證券、10年ぶりの赤字、前期1004億円赤字――「野村が野村でなくなった」

【お知らせ】
5月5日号まで日本は一日も場は立たないが5月5日は休刊いたしません。
本稿は10年来、「休刊」にしたことは一度もありませんでした。有料でご購読される読者諸賢を思うと、身勝手に休刊するわけに行かず、海外からでもどこからでも送信しました。余談になりますが、シリア砂漠のベドウィン族のテントで宿泊してPCを使いダマスカスのホテルから送信したことがあったが、その際には帰国後、PCに故障が頻発して専門家に来てもらって修理してもらいましたが結局は買い直しました。目に見えない砂塵の粒子がPCを痛めるのだという。そんなことには無知だったのです。
来週号は日本では一日も場は立たないから休刊にするのかと思われる方もおられようから申し上げますが5月5日号も配信させていただきます。

野村證券、10年ぶりの赤字、前期1004億円赤字――「野村が野村でなくなった」

野村は昨年の18年3月期決算では約2200億円の利益を計上したが、19年3月期は1004億円の赤字に転落したと発表した。
大和証券も最終利益は638億円黒字だが42%減、日興証券は347億円黒字だが45%減。
野村の悪決算が目立った。

次からは筆者の私見である。
ひとくちで言えば、野村は構造改革と意識改革が全くできなかった。08年の金融危機後に買収した米リーマンの暖簾代を減価償却したことが赤字の大きな要因だった。筆者に言わせればこんなことは今さら遅きに失した。
また、周辺を見渡しても有為な人材が次々と野村を去っていく。この傾向は今に始まったことではない。過去何十年も、野村の最盛時においてさえも、野村が社費で留学させて米国でMBAを取得した者が次々と退社していく傾向があった。
この風潮を嘆く幹部に対して歴代の社長はこう言っていた。「いや、それはそれでいいのだ。野村を去っていった有為の人材はその後も居酒屋で野村の旧友悪友たちと付き合い互いに情報を交換し合っている。これが、野村の野性的グローバリズムを支える一面にもなっているのだ」と言っていた。だが最近はこの「居酒屋の交わり」も消えつつあるという。有為の人材は野村から出て再びは野村とは交わらなくなったという。つまり、野村が野村でなくなったのだ。

だいたい、今の野村は、社内報「社友」が半分は英語で書かれているし、本社の屋上に昔は毎日翩翻と翻っていた国旗と社旗が今はない。つまり、野村はアイデンテイティを喪失したのだ。
旗は、それ自体は武器ではないが、それは武器持つ者と同様な戦意を高揚させる。
国際色を謳うから国旗は立てないというなら、いっそのこと、万国旗でもぶら下げたらよかろう。
社旗も止めた。つまり野村は戦いの基本を喪失して自ら放棄したのだ。

戦闘児野村が、戦闘を辞めたときに、野村は野村でなくなったのだ。自ら戦意喪失に導いたのだ。(日本橋の河を挟んで野村の対岸にスルガ銀行がある。そのスルガ銀行には国旗と社旗が翻っている。これある限り、不祥事の後につけた372円は永久に来ない大底になるだろう)。平成30年間で自社の時価総額を減らした企業は、もちろん電力会社が多いが、野村は3番目にランクされる。

野村に昔から伝わる「こぞことし、つらぬく棒のようなもの」という口伝があったし、
日本橋1-1-1に建てた野村本社の建物の基礎に「この地に足を踏む者、業界の1の1の1たるべし」と彫ったと伝えられる。そして社是のように言われてきたのは「顧客と共に栄える野村証券」だった。この話を上司・先輩から聞かされて若者は育った。今はこの伝統もないという

80年代後半に野村が経常利益で1兆円を挙げ日本一となり株価は5,990円を示現した頃も含めて、そこから珍獣・猛獣が多く出た。それは揶揄とともに一種の恐怖とリスペクトの例えでもあった(★註)。今は珍獣も猛獣もなくなり、温和な家畜となり、野村の悪いところも大いに整理されたが同時に強みだった“一種の野蛮性”も全てを失くした。

野村は2位の大和を大きく引き離して顧客からの預かり資産は110兆円である。GDPの2割となり、時価総額の2割に迫ろうとしている(2位の大和は約半分である)。この110兆円の預かり資産は「眠れる資産」となって必ずしも収益源となっていない。

(★註)野村退社後、国務大臣・経済企画庁長官になった者も居たし、国会議員になった者もいたし、産業再生機構代表者、東証社長も輩出し、第1市場上場企業の社長に
迎えられた者も多数いるし、大学教授になった者は百人を超え「日本橋教授会」なるものを組成したりしていた。もちろん、ワルも出た。だが、そのワルは10億円単位で桁違いに壮大に詐欺った。

【今週号の目次】
1 平成から令和へ――本稿が平成の最終号になる
(1)「平成の大納会」にあたって――市場経済に生きる我々としての基本の確認
(2)平成の30年3ヶ月23日間――「平成の大納会」に当たって
2 当面の市況
(1)当面の市況1――海外勢が3週間連続して日本株買い越し
(2)当面の市況2――日本株の先行きに自信持てない個人投資家たち
(3)当面の市況3――信用買い残の異常な低さ
3 中勢的な相場観の分かれるところ
(1)最近の日米株式市場の概観
(2「各市場のプロの各氏に聞く適温相場」
(3)生保大手2社の見方
(4)世界最大の投信運用大手のCEOの言い分
(5)二つのアノマリーの点検
4 国内企業の決算――野村証券と銀行業
(1)令和元年の決算発表がスタートする
(2)苦境に立つ銀行業
(3)野村證券、10年ぶりの赤字、前期1004億円赤字――「野村が野村でなくなった」
5 海外の動き
(1)中国景気の回復シナリオを巡る気迷いと安心感と
(2)BREXITの危機感
(3)円ドル為替変動幅が過去40年間で最低
(4)高まるトランプの波乱
(5)トランプ政策がかえって移民を増やしている
(6)日米貿易交渉
(7)パリのノートルダム寺院の火災
6 国内の政局
(1)ポスト安倍は菅官房長官
(2)筆者と長い付き合いのある友人・ジャーナリスト嶌信彦通信2019年4月22日 vol.141より「本命に近づく菅氏」
(3)安倍・トランプ会談をゴルフで話し合う意味――三たび北方領土問題

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
電子書籍『4億円投資家直伝 実践 金儲け学 チャンスを逃さない投資の心得39』『スゴい投機家に学ぶ、金儲けの極意12』『名言に学ぶ金稼ぎ法則 世界の賢人が語るカネの真実40』『クソ上司の尻馬に乗る7つの美醜なき処世術 なぜ、イヤなやつほど出世が早いのか』『詐欺師に学ぶ 人を惹きつける技術 仕事に効く人付き合いのポイント44』『投機学入門』『投資詐欺』『常識力で勝つ 株で4倍儲ける秘訣 投資で負けない5つの心得』『会社員から大学教授に転身する方法 第二の人生で成功するための「たった3つ」の必勝ノウハウ』『株式投資の人間学 なぜ、損する株を買ってしまうのか』など。

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