投機の流儀 セレクション【vol.116】イスラエル旅行で感じたこと

イスラエル旅行で感じたこと

本を読んだだけでは判らない。現地へ行ってみただけでも余計に判らない。敢て現地へ行くことによって本も深く読む。そして現地へ行って識者に会う、識者は実際に調べ、かつ学術的な研究もし、その両方をやってきた。

人生は長い、故に遠くまで行け、そして歴史を深く吸い込み、考えてみよ。さすれば、日本から遠い現地で、日常では判らない非日常の中で、日常では思い付かないこものが見えてくる。
歴史を深く吸い込み、非日常の中に身を置いて考えてみよ。

これが筆者がわざわざアフリカの地中海側の沿岸の古代カルタゴの後まで行って、またはそのフェニキア商人の発祥地であるレバノンまで行き、20年前にカルロス・ゴーンが来た時にその出身地レバノンに思いを致し、それが今日のカルロス・ゴーン事件にまで思いがつながる。このように点と点と点が結び付いて一つの線になってくる。このことが筆者をして遠くまで行かせしめる動機となる。現地へ何度も赴き、当地を踏んで調べる、歴史に通じ、しかも現代のデータに通じ、そういう著作に巡り合う。例えば、一橋大学社会学博士、現在獨協大学教授の佐藤唯行氏などである。これは実は筆者とある意味では志を同じくする不動産コンサルタントの長谷川高氏から教わった本である。
筆者はユダヤ陰謀説とかフリーメイソンの言い伝えのような一見興味を惹くオドロオドロしい話にはほとんど関心がない。このようなものはお伽話のようなものだ。

では、ユダヤ人が確かに金融の面で特殊能力を持ち、現に莫大な金融力を持ち、経済にその大きな影響力を行使していることはどこから来るのか。こういうものは点と点が一つの線になったときに判ってくる気がする。
筆者は今のところ次のようにまとめている。
略述する。

①ユダヤ人は教育を極めて重視し、知的能力をつけることを宗教上の義務だとするような歴史的伝統がある。無学で経典が読めないというのは一つの罪となり、日本語で言うところの天罰が下る、と信じている。こういう環境の中で幼少の頃から育つ。知的レベルが上がっていくことは事実である。

②3000年前から差別されて賎民だったとされた。エジプトの奴隷だったユダヤ人を解放したのはモーゼであるが、全員が奴隷出身とされた。この被差別民族は差別的業務しか営めなかった。金貸しと金融業は賤民が営む被差別民族の業務だった。これがカネのエキスパートになるもととなった。日本でも士農工商と言い、江戸時代には金貸しや金を扱う者は最低の身分だと建前上はされてきた。しかし、建前上最低の賤民が大名に金を貸したりして金融力を持ったのは日本でも同じである。

③被差別民族であるから金のかかる生活様式は遠ざけられた。つまり、社交界から締め出され高級車には乗れない。これはたまたまマックスウェーバー言うところの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」のプロテスタンティズムの倫理と軌を一にする。日本で言う質実剛健の徳目と軌を一にする。

④世間の中心部から追われて周辺部で生きた周辺民族とされる。社会学で言うところの「マージナルマン」である。そうすると、中心に居ては見えない本質が周辺に居ると見えてくる。ウォール街の格言に「つむじ風の真ん中に居る奴ほど風の方向が見えないのだ」という格言がある。マージナルマンのためにできた格言だ。

⑤移民先でも差別されたが、そこでも特殊能力を出して頑張り、移民先で定住しそこで成功を収めた。他の民族は移民先は「出稼ぎ先」と考え、小さな成功を収めるとさっさと故郷に帰った。ところがユダヤ民族は故郷に帰っても被差別民族であるから故郷に帰りたがらなかった。よって移民先で定住しそこで頑張って成功した。

⑥少なくとも1948年ユダヤ共和国建国までは「祖国なき民」を3000年生きてきた。したがって、祖国なき民が生み出した国際ネットワークは強力である。特にドイツ系ユダヤ人のそれは強力である。我々は、ナポレオン戦争時に一挙に財を成したネイサン・ロスチャイルドにおいてその実例を見ることができる。彼はフランクフルトのユダヤ人だ。ところが一族をパリに支店を置きロンドンに支店を置きナポリに支店を置きヨーロッパ各地に一説によると伝書鳩で迅速な通信網をとったとされる。ウォータルローの戦いが、ナポレオンを破ってイギリスの勝利だと知って午前中大いに空売りをして売り崩しておいてそれの全部安値を買って後場に一挙に巨富を成したという例のネイサン・ロスチャイルドの逸話はあれは伝書鳩の速報だったという説が事実らしい。もっとも彼らは死刑囚の囚人を金で買い取ったり、1回自殺を決意した者が再び生きる決意をした者を金で雇ったり、そういう命知らずの者たちだけを集めて嵐の中でも迅速に動ける小型船で情報を取交換し合ったという説もある。これは事実らしいが、伝書鳩の方が速い。これも事実だろう。

ユダヤ人が富を蓄えてきたことに恐怖を感じた中世以降のキリスト教徒は、その恐怖の面を蔑視観に切り替えた。そして「拝金と暴力の民ユダヤ人」というイメージをつくり上げたのだ。

ウォール街の金融ビジネスのリーダーは半数以上がユダヤ人である。逐一資料を挙げなくても、リーマン・ブラザーズもソロモン・ブラザーズもゴールドマンサックスも全部ユダヤ人の会社だ。また、FRB議長も時々ユダヤ人がなる。現に前議長ジャネット・イエレン女史はユダヤ人だ。その前の前のグリーンスパンは19年間も議長を務めたがこれもまたユダヤ人だった。
全米屈指の大富豪の25%はユダヤ人である。全米の人口のユダヤ人が占める率は3%もないが、全米屈指の大富豪に占める率は25%である。それはユダヤ陰謀説や秘密めいたフリーメイソンのような興味本位のおどろおどろしい作り話とは無関係である。以上列挙した6つの背景の中で日本人と極めて似ている面がある。①教育を重視する。というのは日本の寺小屋の制度とか、「読み、書き、そろばん」、儒学の観点、朱子学の観点からも同じであるし、質実な生き方を徳目とすることは質実剛健と節倹貯蓄を徳目とする日本人の古来の考え方とも共通するし、被差別民族が行ったという卑賎な業務としての金貸し・金融業は江戸時代の士農工商の建前とも一致するし、世間の中心部から追われた周辺民族ということも日本人の江戸時代の建前上の商業蔑視とも通ずるし、そして質実剛健を旨とする生き方はマックスウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理」とまったく一致する。
このようなことでユダヤ人と日本人は極めて近い。山本七平の「日本人とユダヤ人」を待つまでもなく、民族として極めて近い。

そしてまた、事実上の日本民族はユダヤ民族のために大いに助かった面も多い。例えば、戦後直後アメリカに輸出した電機・自動車は「安かろう、悪かろう」ということで差別され、日本商品のブランド力はなかった。それを特殊な商社能力・流通能力を用いてアメリカに売り込んだのはユダヤの貿易商だった。またもっと遡れば日露戦争の時に軍事費調達のために出した膨大な国債を大量に買って、日本の軍事費に充てたのはロシア系ユダヤ人のジェイコブ・シフだった。「日露戦争に賭けたユダヤ人」などというシフの伝記もある。このように日本人とユダヤ人とは民族性で極めて近いところもあり、現に大いに関係を持った面もある。

イスラエルで10日ほど過ごしてみたが、親日もないし反日もない。人口850万人ぐらいの東京都民にも及ばない人口であり、国土は四国よりも小さい。だが、全身に針を植え付けたハリネズミのような武装で固めた国で、男女ともに18歳から国民皆兵、各家庭には機銃が配備されている(この点はスイスも同じだ)。隣国シリアのジェット機にエンジンがかかればリアルタイムでイスラエルの戦闘機に同時にエンジンがかかるようになっている。

少人数ながら強力な力を持つモサドの底知れぬ凄みは一種の伝説や怪奇談となって伝わっている。現にナチスのアイヒマンが人相も整形手術で変え指紋も変えてアルゼンチンに隠れていたのを探し出し、イスラエルに連れ帰って、死刑制度はないのに死刑にした.この執拗さ、戦争犯罪には時効がないという刑法、こういうものを彼らのノーベル賞の自然科学性のものは25%がユダヤ人だとか、あるいは起業が人口当たり一番多いのはユダヤ人だとか、18歳の少女が機関銃を持って立っている。うっかり無断で写真を撮れば撃たれるとか(これは嘘であって了解をとれば写真も撮れる。現に筆者は4人に声をかけ3人断られたが一人はOKしてくれたからアメリカ製と思しき機銃を携帯している少女をカメラに収めてきた)、何か謎めいた、秘密めいた話しをつくり上げて面白がっているようではユダヤ人の実体は見えてこない。現地へ行ったからといって10日や一カ月では何も判らない。本を読んだだけでは何も判らない。色々読み色々見て点と点が一つの線になってつながっていくものであると考える。筆者の頭の中ではまだ線はつながっていないが、つながり始めたような気がするので今ここに略述した。

【今週号の目次】
(1)米、景気転換を確認(★註)、NYダウのトレンド変化の可能性。投資家にとっては今が一番重要な過ごし方をするべき期間である
(2)「波乱相場でも勝つ」「嵐に負けぬ」「優良割安株に先読み」――日経ヴェリタス紙3月17日~23日の見出しの文句である。なるほど、これができればこれに越したことはないが筆者の考え方は少々違う。
(3)株式相場の大勢を決める景気認識の問題――大底圏内を探るため本稿における筆者の責務
景気認識の問題:1
 ○20日の月例経済報告と景気動向指数
景気認識の問題:2
 ○日本経済研究センターと「景気後退確率」
景気認識の問題:3
 ○強まる追加緩和観測=景気の先行き警戒
景気認識の問題:4
 ○米FRBは20日の公開市場委員会FOMCで景気警戒を示した
(4)戦後最長景気(?)について
(5) 今週は売り先行から安く始まるであろう。
 ○当面の市況(1)200日線は到達不能
 ○当面の市況(2)半値戻りレベルは定着できないであろう
 ○当面の市況(3)日銀、強まる追加緩和観測
 ○当面の市況(4)中国経済→先行して上海総合株価指数=日経平均株価動向
 ○当面の市況(5)先週週初の出来事
(6)マイナス金利に疑義とその反論
(7)大相場に付きものの地価上昇は4年連続
(8)原油相場の大局
(9)輸出立国型の日本経済に逆風
(10)中国株と日本株との連動性が高まる
(11)英国のEU離脱延期は混迷,解決はされていない
(12)BREXITの問題とシティ凋落の問題
(13)4月以降開催見通しの日米交渉
(14)イスラエル旅行で感じたこと
蛇足――何が「秋霜烈日」なものか。「検察の正義」とは何か?

【重要なお知らせ】
「まぐまぐ!」でご好評いただき、殿堂入りの誉れを賜った「投機の流儀」ですが、このたびピースオブケイクの運営するコンテンツサイト「note」にも掲載する運びとなりました。
それにあたり、あらためて自己紹介代わりにインタビューをしていただきました。
ぜひともご笑覧ください。

https://note.mu/touki

なお、デンショバでの連載は、ピックアップ記事として継続することになっています。
引き続きのご愛読、どうぞよろしくお願いいたします。

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この連載について

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【著者】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年、シンガポールに生まれ、長野県で育つ。1961年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村証券入社。1974年、同社支店長。同社を退社後、三井ホーム九州支店長に就任、1983年同社取締役、1990年同社常務取締役兼三井ホームエンジニアリング社長。退任後の2001年、産業能率大学講師として「投機学」講座を担当。2004年武蔵野学院大学教授。現在、武蔵野大学大学院教授兼武蔵野学院大学名誉教授。投資歴51年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築。晩年は投資家兼研究者として大学院で実用経済学を講義。ラジオ日経「木下ちゃんねる」、テレビ番組「ストックボイス」ゲストメンバー。
著書『常識力で勝つ超正統派株式投資法』『大損しない超正統派株式投資法』など。
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