お地蔵さんぽ【vol.5】「水子地蔵」巡礼@山口県・桑山

人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

「水子地蔵」巡礼

先日、お盆で山口県の実家に帰省した。駅から実家へ向かう道は「桑の山」という山の麓(ふもとを)を通り過ぎる。
すっかり忘れていたけれど、ここに多くのお地蔵さまが並んでいた。

昔、麓の道は樹木に覆われて、昼間でも薄暗かったのだけれど、今はすっかり明るくなっていた。

僕は物心がついたころから5歳まで、静岡県の藤枝市というところに住んでいた。天気のいい日、トイレの窓から遠くに富士山が見えた。
山口県の防府市に引っ越してからは、トイレの窓から桑の山が見えた。
標高は107メートルの小さな山だけれど、どことなく怖くて、途中までしかいけなかった。

幼稚園のころ、桑の山を登るとすぐにあった招魂場という戦争で亡くなった軍人の碑が建っている場所があるのだけれど、そのすぐ裏側の崖を弟と登ったことがある。
途中まで登ったのはいいが、降りることも先へ登ることもできなくなって、2人とも青い顔をしていたら、親切なおじさんが来て「どうしたんか、降りられんようになったんか?」と聞かれたので、泣きそうな顔でうなづくと、おじさんは僕たちを軽々抱えておろしてくれた。

小学校1年生のときの朝礼で校長先生が、
「桑の山にはひとりで行ってはいけません。先日も小学生の男の子が裸で木に縛られていたそうです」
と言った。いったい桑の山とはどういう場所なんだろう、言い知れぬ怖さと、逆に興味が湧いてきたりもした。

そんな怪しいものの代表がこのなぜお地蔵さんが並んでいる風景だ。
一本の道だけではなく、桑の山のいたるところにお地蔵さんは並んでいた。

特徴的なのは、首から空き缶をぶら下げていることだ。
そのうち、拝んでいる人を何度か見かけた。たいていは、年配のご婦人で、首から白い袋のようなものを下げていた。
何度か見るうちに彼女たちが白い袋からお米を出して、缶に入れているのを目撃した。

* * *

高校生になったとき、この道は僕の通学路になった。この先にある防府高校へ毎日通っていたのだ。
そのころは、お地蔵さんが首から下げていらっしゃる缶がミルクの缶であることや、その理由もわかっていた。

このお地蔵さまは水子地蔵で、この世に生まれてこなかった子供を供養するためのお地蔵さまなのだ。

いつもは年配の女性がお参りをしているのだけれど、時に若い女性が人目を気にしながらお参りをしている姿も何度か見たことがある。
今回あらためて、見てみると、お地蔵さん一体一体、表情が違うし、大きさなども違っている。
それぞれに名前と番号がつけられているのがわかった。

こちらは「第7番 阿弥陀如来」とある。
全部が違う名前なのではなく、いくつかパターンがあるようだ。
阿弥陀如来と書かれたものもいくつかあった。

1番に行ってみよう。

1番は大師堂というお寺の境内にある。このお寺を含め、ここ一帯のお地蔵さん群全体を「お大師様」と土地の人は呼んでいたように思う。

大師堂の境内には、立派な本堂があったのだけれど、帰省するたびに傾き、ブルーシートがかけられたりしていたが、昨年、2016年に放火で焼けたそうだ。
今は更地になっている。

そして、こちらが1番。

1番は「釈迦如来」だった。

この1番目のお地蔵さまの隣に「お賽銭、お米はまとめてこちらへ」という札があり、お米を入れる大きな缶と賽銭箱が置かれていた。今はまとめてここへ納めるようだ。

それにしても、お地蔵さまはいろいろな理由でそこへおられる。
今回は水子についてのお地蔵さまだった。
そう思ってみれば、どことなく悲し気な表情のお地蔵さまが多い。
1番から何番まであるんだろうか。

全部めぐってみようかと思ったけれど、新幹線の時間もあるので、あきらめて、駅へ急いだ。

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この連載について

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人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。