お地蔵さんぽ【vol.2】泰寿院@上野・御徒町

人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

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次回の『散歩の達人』が上野特集ということで、上野界隈のお地蔵さんマップの企画をまかされることになった。マップはイラストレーターの方が作ってくれるのだけれど、その材料のためにカメラを持ってお地蔵さんの写真を撮り、ひとつひとつ名前を確認した。多くの場合、お地蔵さんのところに名前が書かれているのだけれど、つだけわからないものがあった。

ひとつは、泰寿院の前にあるお地蔵さん。境内ではなく道沿いにいらっしゃるのだけれど、敷地は泰寿院内のようだ。泰寿院の方に聞けば、かつて檀家さんが奉納したお地蔵さんなのだそうだ。



東京都台東区下谷2-11-12 泰寿院のお地蔵さん

かなり古いもののようだ。薄くはなっているが、お地蔵さんの周辺には文字が書かれている。でも、よくわからない。応対に出てこられた方が名前がわからないというので、「それでは、泰寿院のお地蔵さんということでいいですか」と了承をいただく。

さて、もうひとつ、前回もご紹介した我が家からほど近い場所にあるお地蔵さんも名前がわからない。

困ったときは、近所の町中華へ行く。
『幸來』というお店で、この地で30年以上営業しているので、地元のことにはくわしい。
ランチを食べにうかがい、話を聞いた。

「おやじさん、下谷警察署の前にあるお地蔵さん知ってる」

あー、知ってるよ、いつものコースじゃないけど、たまに前通るね。
おやじさんが住んでいるのは根岸で、自転車で北上野2丁目の店まで毎日通っている。

「前を通るときは、パンパンって手をたたいて、拝んでるよ」
「あ、おやじさん、それ、手たたいちゃだめだよ。仏教だからさ、手は叩かないの」

僕は仕入れたばかりの知識を披露する。

「へえ、そうかい。だけど、形じゃないよ、拝む気持ちがあるかないかが問題なんだよ」
「そりゃ、そうだね、おやじさんいいこと言うよ。ところで、そのお地蔵さん、名前知ってる」
「知らない」

そうか、期待はしてなかったけど知らないか。

「お地蔵さんもいろいろあるからね、交通事故で死んだり、若くしてなくなった赤ちゃんだったりね、いろいろいわくがあるんだよ」
「あー、そうなんですか。名前、知るためにはどうしたら、いいですかね」
「そりゃ、あそこのお地蔵さんに花を供えたりしている人がいるはずだから、聞いてみりゃいいじゃん、ビルの人とかに」

というわけで、午後出かけてみた。
ビルの一階にはいくつか会社が入っている。ちょうど会社の方が出ていらっしゃったので、お地蔵さんのことを聞いてみた。すると近くの別のビルにオーナーさんがいらっしゃるとのことで、そこで聞けばわかるかもしれないとのこと。なるほど、お掃除をしたり、お花をあげたりしているのはそちらの方なんだろう。
とにかく教えられるままに行ってみると、高齢のご婦人が応対してくださった。

「あのお地蔵さんは、父がこの土地を買ったとき、がれきから出てきたんですよ。戦後このあたりは焼け野原だったんです」

それで、身体が割れているのをくっつけて、祀っていたのだそうだ。
名前がついているのかどうかを聞いてみた。

「まあ、そんなものですから、名前はないんですよ」

雑誌の企画を説明し、せっかくだから、この際、名前をつけてみたらどうですかとお願いしてみた。

「そうですね、ちょっとお地蔵さんにも訊いてみないといけませんしね」

とにこやかな表情でおっしゃった。

「連絡先はこちらでいいんですね」

渡した名刺を見て、そうおっしゃる。それでは、連絡をお待ちしておりますと、帰宅した。
翌日の昼前にそのご婦人から電話がかかってきた。

「あの、お地蔵さんの名前を決まりましたので、お伝えします。『みまもり地蔵』でお願いします」

とおっしゃった。なるほど、いいお名前だ。

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【引っ越しのお知らせ】
当サイトにて連載中の「お地蔵さんぽ」は、ピースオブケイクの運営するサイト「note」への引っ越しすることになりました。

全話が見られるのはnoteだけで、当サイトでの掲載はピックアップとして1~5話と直近の5話の掲載を予定しております。
引き続いてのご愛読、よろしくお願いいたします!

この連載について

初回を読む
人々を苦しみから救ってくれる存在として、古くから日本人に親しまれてきたお地蔵さま。
子どもの頃からいつも側にいる、ちょっと不思議な守り神を探す「お地蔵散歩」。
きょうもお地蔵さんを探しながら歩いています。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。