トーキョー・レガシー・ワンダーランド【vol.3】バスタ新宿以前@JR新宿駅南口

巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。

* * *

これまで2回は、昔あった建物が取り壊されて、今は何があるかを見に行くという展開だったのだが、今回は今建っている建物の前は何があったかを自分のパソコンの中の画像を探してみようと思う。

今回取り上げるのは「バスタ新宿」だ。

新宿には何年か住んでいたので、けっこう写真は撮っていると思う。「バスタ新宿」の使用が開始されたのが2016年4月4日ということで、そのころはもう上野に引っ越していた。

工事の始まった2006年4月8日ということで約10年間は工事をしていたことになる。なので、僕の記憶にある「バスタ新宿」ができる前の景色は、工事中というイメージだ。

2013年12月6日の写真に少しだけだけれど、工事中のバスタ新宿が写っていた。

左側の建物だ。南口の前の歩道は拡張されている。
その少し前の2013年11月21に撮影したのがこちらの写真。

東南口地下歩道となっているが、実際は1階だ。なぜかと言うと、新宿駅南口というのは、JRの線路をまたぐ跨線橋のいちばん高いところに造られている。新宿駅のホームから東口や東南口は階段を下るが、南口は階段を上がる。
上の写真の場所は今新南口と呼ばれているバスタ新宿に隣接する駅部分ということになる。

この塀の向こう側で工事が行われているのだ。

もう少し時間をさかのぼってみよう。
2011年12月21日の撮影。
工事が始まっている。

正面に高島屋が見えるので、左が新宿駅南口で右が代々木駅側だ。
実はこの写真を撮りながらもここに何ができるのかは、まったく気に留めていなかった。
金網が貼られていて、その隙間から撮影した。
もう少し時間をさかのぼる。
2011年6月1日のものだ。

OLYMPUSの看板のビルがある。JR新宿ビルとなっている。ここも取り壊されて、今は「新宿バスタ NEWoman」という商業施設になっている。
2010年3月11日には、逆側から撮影している。

代々木駅へ抜けるサザンテラス。OLYMPUSの看板が見える。

工事が始まった翌日の2014年4月9日の写真を見つけた。

ストリートミュージシャンが演奏している。
フェンスもまだゆるい。
中が見える箇所もある。

すでに新宿バスタの骨格のようなものもできている。

残念ながらこれより前のものは見つけられなかった。
散歩の原稿を書くようになったのは、ちょうど2006年ころからで、画像が多く残っているのはそれ以降で、それ以前はあまりない。
アンダーグラウンドなイベントの画像ばかりだ。
それでも探してみると、こんな画像が出てきた。
1999年5月29日の撮影。

すでに高島屋はできているけれど、奥のドコモのビルは建設中だ。

僕自身の頭の中にはその1977年の新宿駅南口様子はよく覚えている。
高校3年生のときのことだ。
大学受験のため山口県から上京し、新宿駅あたりを散歩したことがある。
南口に出たのだけれど、それは偶然だった。

南口から明治通り方向へ歩いた。
今の東南口よりもう少し先に下に降りる階段があったが、そちらではなくゆるやかに下っていく道を歩いた。
明治通りと交わる手前で僕と同じ年くらいの男2人が20代半ばくらいの背広を着た男性に「アンケートいいかな」と声をかけられていた。
男たちは立ち止まり、話をきいている。

東京というのは、こういうところでもアンケートをやるんだと思いながら、彼らの横を通り過ぎた。
道の逆側へ出ると、場外馬券場があってちょうど競馬の開催日だったので、その周辺はおっさんたちでごった返していた。
今とはまったく違った雰囲気で、コーチ屋のような人やちょっとしたゲームをやらせるような人たちが道端に多くいた。
ぐるぐるとけっこう歩いて、再びさっきのアンケートの場所に出てくると、登場人物が増えていた。
なんと警察官2名が加わっている。
1人の警察官がアンケートをしている男性に「金を返してやれ」と言っている。
男はしぶしぶ金を若い男性2名に返していた。

僕は当時、参宮橋駅にあったオリンピック選手村に宿泊していた。
かつて東京オリンピックのときに選手村だった場所が安い宿泊施設になっていたのだ。

この時期、全国から受験のためにやってきた受験生であふれかえっていた。
同じ部屋に何人もが宿泊する形だったが、となりの部屋にいる男がアンケートで冊子を3冊も買ってしまった、2冊はいらないから、誰か買わないかと言う。
見せてもらうとその冊子は、映画館などの割引券が束ねられて、冊子のようになっていた。
たしか一冊、3千円だと言っていた。
割引で映画を観られるのだから、何回かいけば元が取れると説明していたが、他の誰かが「それ、詐欺なんだよ」というようなことを言って、結果、誰も買わなかった。

オリンピック村に滞在していたのは1週間ぐらいだったろうか。
翌日、試験もなかったので、新宿まで行ってみた。
きのう、アンケートをしていた場所へ行ってみる。アンケートがどんなものか知りたかったからだ。
「アンケートなんですけど」と声をかけてきたのは、男性ではなく20歳くらいの女性だった。
「はい」と足を止める。最初の質問は「現在の所持金はいくらですか?」だった。
本当は3万円くらいもっていたけれど、怖いので「5百円」と言ったら、「はい、ありがとうございます」とそこでアンケートは終了してしまった。
ああ、そうか、アンケートと称し、最初に所持金を訊くのは、例の冊子を買えるだけの金額を所持しているかどうかを探っているのだ。へたこいたなぁ。
そう思いながら、今度は東口方向へ歩いてみた。

ほどなく、「アンケートに答えてもらえませんか」と30歳くらいの背広を着た男性が声をかけてきた。
最初の質問は同じで、所持金を訊かれたので5千円と答えた。
その後、映画を観るかだとか、外食はするのかといった設問があって、最後にアンケートのお礼にと例の冊子を渡された。
「これ普段は1万円で売られているんですけど、きょうは特別に3千円でいいですよ」と言われる。
断ると、「さきほど映画を月に2、3回見るとおっしゃってましたが、それだとすぐに元が取れますよ」というようなことを言われたが、要らないと冊子を返し、その場を去った。
心臓がドキドキした。

けっきょく僕はこの年、すべての受験に失敗し、浪人することになるのだ。

BACK  NEXT

【引っ越しのお知らせ】
当サイトにて連載中の「トーキョー・レガシー・ワンダーランド」は、ピースオブケイクの運営するサイト「note」への引っ越しすることになりました。

全話が見られるのはnoteだけで、当サイトでの掲載はピックアップとして1~5話と直近の5話の掲載を予定しております。
引き続いてのご愛読、よろしくお願いいたします!

この連載について

初回を読む
巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。

【著者】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
著書『下関マグロのおフェチでいこう』(風塵社)、『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『たった10秒で人と差がつくメモ人間の成功術』『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)、『歩考力』(ナショナル出版)、『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』(共著、ポット出版)、『おっさん糖尿になる!』『おっさん傍聴にいく!』(共著、ジュリアン)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(共著、リットーミュージック)など。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。
本名名義の著書に『思考・発想にパソコンを使うな』(幻冬舎)、『脳を丸裸にする質問綠』(アスキー)、『おつまみスープ』(共著、自由国民社)、『もしかして大人のADHDかも?と思ったら読む本』(PHP研究所)などがある。
電子書籍『セックスしすぎる女たち 危ないエッチにハマる40人のヤバすぎる性癖』『性衝動をくすぐる12のフェティシズム 愛好家たちのマニアックすぎる性的嗜好』『みるみるアイデアが生まれる「歩考」の極意 すっきりアタマで思考がひらめく40の成功散歩術』など。